競争性と包摂性:自民党(Liberal Democratic Party)の総裁選と、日本の自由民主主義(liberal democracy)

 自由民主主義(liberal democracy)の点から、与党の総裁選を見てみると、どういったことが見えてくるだろうか。

 与党である自由民主党の総裁の選挙では、候補者の政治家たちがお互いに争い合う。

 いっけんすると、お互いに候補者の政治家が競い合っているようだけど、ほんとうにがちで競い合いがなされるのだとはできそうにない。

 政治家としての中身だけで、がちで候補者の政治家どうしが競い合ったら良さそうだ。中身だけで勝負し合って、それで勝ち上がった人は、政治家としての中身がいちばんあることになる。

 じっさいの自民党の総裁選は、中身がない政治家であったとしても、勝つことができる。中身だけによっては勝ち負けが決まらない。たとえ中身がなかったとしても、都合がよい政治家だったら勝てる。(頭の)中身が空っぽなほうがむしろ勝ちやすいのである。へたに中身があるとその政治家は負けてしまう。

 報道では、もっぱら自民党の総裁選に多く目が向けられている。自民党の総裁選は盛り上がっているけど、野党である立憲民主党の政党の長をえらぶ選挙はあまりとり上げられない。

 政党の中でだけではなくて、政党どうしが競い合う。政党間競争(party competition)だ。日本の政治では、政党間競争が欠けている。

 経済でいえば、少なくとも二つのお店がないとならないのが民主主義だ。二つのお店が互いに競い合う。日本の政治では、二つのお店があるのであるよりも、一つのお店しかない。自民党の一店しかないから、お店どうしの競い合いがはたらかない。

 お店でいえば、一店しかよしとされていなくて、もう一店が排除されてしまっている。もう一店が包摂されていない。もう一店である野党(opposition)が排除されてしまっているから、お店どうしの競い合いが働かず、お店の質が高まって行きづらいのである。

 二つだけではなくて、三つでも四つでもお店があってよいのがある。二つあることがいるのは民主主義としての最低の条件である。いくつもお店がある中で、どのお店がいちばん良いのかがある。どの政党がいちばん良いのかだ。

 かんじんなのは、どのお店がいちばん良いのかであるよりも、お店どうしの競い合いがあるのかどうかだ。日本の政治では、政党どうしの競い合いが欠けているから、お店の質が向上して行きづらいのがあり、お客さんが損をしてしまう。害を受けてしまう。あんまり良くない物しかなくても、そのお店(自民党)でしか物を買えないから、しぶしぶ買わざるをえない。

 せめて二つのお店どうしで、競い合いができたらよさそうだ。いまの日本の政治では、政党どうしの競い合いがなくて、もう一つのお店が包摂されていなくて排除されている。そこを改めて行く。

 もう一つのお店である野党を排除しないようにして包摂して行く。総裁選では、自民党をとり上げるのであるよりも、野党である立憲民主党でなされる政党の長をえらぶ選挙のほうを、より大きくとり上げるべきである。お客さんがお店でより良い物を買えるようにするためには、反対の勢力(opposition)をもり立てるようにしたほうがよい。

 一元のあり方になっているのが日本の政治であり、自民党しか良しとされていない。多元のあり方によるのが理想だ。一元のあり方だと、自民党がだめになったとしたらその代わりがない。不確実性への備え(contingency plan)をもっていないのである。

 かつての、わりに確かだった時代はすぎ去った。とりあえず自民党についていって、それに従っていれば何とかなったのはかつてのことだろう。自民党を選んでおけば何とかなった。わりあい安定していた絶対化の時代は終わり、いまは相対化の時代である。いまは不確実性の時代だ。

 経済の市場でいえば、お店が一つしかないから、そのお店がつぶれたら、ぜんぶが終わりになってしまう。自民党に代わるお店がないから、抑制と均衡がはたらいていなくて、まずいあり方だ。市場の仕組みとしては、抑制と均衡(checks and balances)がはたらくことがいる。

 だめなお店はつぶれて、よいお店は生き残って行く。日本の政治は、だめなお店が生き残りつづけている。市場の仕組みがきちんと働いているのであれば、だめなお店はつぶれたほうがよい。だめな政党は、存在の理由がないのだから、無くなってもよいのである。不祥事をやりまくるようなだめな政党は、それが有ることの自明性がなくなっている。いまだにその政党が有るからといって、それがこれからも有りつづけるべきだとは断言できそうにない。

 参照文献 『「野党」論 何のためにあるのか』吉田徹 『新書で大学の教養科目をモノにする 政治学浅羽通明(あさばみちあき) 『カルチュラル・スタディーズ 思考のフロンティア』吉見俊哉(よしみしゅんや) 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『法律より怖い「会社の掟」 不祥事が続く五つの理由』稲垣重雄 『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』金田信一郎 『経済ってそういうことだったのか会議』佐藤雅彦 竹中平蔵(へいぞう) 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『相対化の時代』坂本義和(よしかず) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『リーダーは半歩前を歩け 金大中(きむでじゅん)というヒント』姜尚中(かんさんじゅん) 『絶対に知っておくべき日本と日本人の一〇大問題』星浩(ほしひろし) 『どうする! 依存大国ニッポン 三五歳くらいまでの政治リテラシー養成講座』森川友義(とものり)