反ユダヤ主義と、批判の声(voice):アメリカの大学での、学生たちによる批判の声

 アメリカの大学では、イスラエルへの批判の声が学生たちからおきているという。

 パレスチナに暴力をふるっているイスラエルを批判する。イスラエルへの批判は、反ユダヤ主義だからだめだとされるのがあるけど、それは本当に駄目なものなのだろうか。

 何がだめなことなのかを見てみたい。イスラエルユダヤの民族にたいするあらゆる批判がだめなのだとはできそうにない。イスラエルにたいするあらゆる批判がすべて反ユダヤ主義になるのだとはできづらい。

 反ユダヤ主義が悪いのであるよりも、含意を込めてしまっているのがよくない。そうとらえてみたい。

 どういったものに含意をこめているのかといえば、イスラエルユダヤの民族についてだ。それらを良いものだとする含意をこめてしまう。反ユダヤ主義は悪いものなのだとする含意をこめてしまうのは行きすぎである。

 反ユダヤ主義に悪い含意をこめてしまうと、その逆のものであるユダヤ主義は良いものなのだと含意をこめることになる。ユダヤ主義があるとして、それがいついかなるさいにも良いものなのだとは含意をこめられそうにない。

 なぜ含意をこめるのがよくないのかといえば、状況をないがしろにしてしまうからだ。状況をくみ入れないことになってしまう。いろいろな状況があるから、それらによってはイスラエルが正しいこともあるし、まちがっていることもある。状況しだいでは良くもあり悪くもあるのがイスラエルだ。

 反ユダヤ主義ならばぜんぶ悪い。ユダヤ主義ならばぜんぶ良い。それらをひっくり返してみて対偶(たいぐう)にしてみると、こうすることがなりたつ。ぜんぶが悪いのでないのであれば、反ユダヤ主義ではない。ぜんぶが良いのではないのであれば、ユダヤ主義ではない。

 反ユダヤ主義であったとしても、ぜんぶが悪いのではなくて、中には良いものをふくむ。イスラエルの国がまちがったことをやっていることがあるから、イスラエルへの批判には良いものをふくむ。

 ユダヤ主義であったとしてもぜんぶが良いのではなくて、中には悪いものがある。イスラエルの国がやっていることの中には悪いことがあるから、ぜんぶが正しいことをやっているわけではない。

 悪いものそのものなのが反ユダヤ主義なのだとはできず、そこには反例がある。イスラエルへの批判には当たっているものが中にはある。批判の、ぜんぶが外れているわけではない。

 良いものそのものなのがユダヤ主義なのだとはできなくて、中には反例をふくむ。イスラエルの国が悪いことをやっていたりまちがったことをやっていたりするのがあるから、そこについては批判をして行くことがいる。

 含意をこめてしまっている。状況の思考によっていない。状況をくみ入れていないのがイスラエルにはあり、そこに悪さがある。何が悪いのかでは、反ユダヤ主義イスラエルへの批判が悪いのであるよりも、ちがうところに悪さを見てとりたい。

 反ユダヤ主義でもよいのかがある。ユダヤの民族への差別につながってしまうのがあるから、それはよくないけど、反証の可能性を持つことがいる。うそを証明できる可能性をもっていないとならない。

 イスラエルにたいするあらゆる批判は、反ユダヤ主義である。ひとつの見なし方としてそう見なすことができるけど、そこには反証の可能性がないとならない。うそを証明できる可能性をもつことがいる。

 たとえイスラエルを批判しているのだとしても、その中には反ユダヤ主義には当たらないものを含む。あらゆる批判はすべて反ユダヤ主義だとするのは、うそだろう。

 たとえ反ユダヤ主義が悪いことであるのだとしても、反証主義によらなくてよいわけではない。あらゆるものは反証主義によることがいり、反証の可能性をもつようにしなければならない。イスラエルユダヤの民族だからといって、反証主義によらなくてよいわけではないし、反証の可能性をもたなくてもよいのではない。

 すべてのものは、他からの批判に開かれていることがいる。反ユダヤ主義が悪いのであるよりも、他からの批判に開かれていなくて閉じたあり方になっているのが悪い。あらゆる国や民族は、他からの批判を受けることがいるし、閉じたあり方ではないようにすることがいる。

 ユダヤ人への差別につながるから反ユダヤ主義は悪いものではあるけど、他からの批判に開かれていることがいるのである。反証主義によっていないのであれば、それは悪いあり方だ。

 差別はよくないけど、特権もまたよくないから、ある国や民族にだけ特権を与えるわけには行かない。中立な立ち場から判断する思想なのが自由主義(liberalism)であり、それからすると特権はなくすべきだ。

 参照文献 『反証主義』小河原(こがわら)誠 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『本当にわかる論理学』三浦俊彦 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『暴力 思考のフロンティア』上野成利(なりとし) 『ええ、政治ですが、それが何か? 自分のアタマで考える政治学入門』岡田憲治(けんじ) 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『アイデンティティ(identity) / 他者性(otherness) 思考のフロンティア』細見和之(ほそみかずゆき) 『カルチュラル・スタディーズ 思考のフロンティア』吉見俊哉(よしみしゅんや) 『ナショナリズム 思考のフロンティア』姜尚中(かんさんじゅん) 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫構築主義とは何か』上野千鶴子編 『九九.九%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』竹内薫(かおる) 『思考のレッスン』丸谷才一(まるやさいいち) 『うその倫理学』亀山純生(すみお) 『差別原論 〈わたし〉のなかの権力とつきあう』好井裕明(よしいひろあき) 『大学受験に強くなる教養講座』横山雅彦倫理学を学ぶ人のために』宇都宮芳明(よしあき)、熊野純彦(くまのすみひこ)編