共産党と、反共産の、意味論―二つは正反対のものなのか

 反共産主義が、いまの日本では言われている。戦争がおきる前のきざしだ。戦争の前夜だ。戦争がおきる前ぶれであり、その兆候(ちょうこう)なのが、反共だ。

 共産党の長や、共産党を批判することが言われているのがあるが、それは、戦争の前ぶれなのをしめしているのだろうか。軍備を拡張して行くことのじゃま者に当たるものとして、(反軍拡を言っている)共産党が批判されているのだろうか。

 たしかに、日本共産党が言っていることは、まったく当たっていないことだとまでは言えそうにない。これから先に、日本が戦争をすることは、まったくありえないことではない。アメリカがやる戦争に、日本が巻きこまれるおそれは決して低くはない。アメリカがやる戦争の巻きぞえを日本がくう。

 どんどん軍拡をやっていっている(やろうとして行っている)のがいまの日本だから、それにたいして批判をしていて、反軍拡を言っている共産党は、日本のあり方に同調(同意)していない。日本の軍拡のあり方に同調していない共産党のあり方は、よいあり方なのはある。

 やすやすと日本の国がやっていることに同調しない共産党のあり方は、よいものではあるけど、そのさいに、共産党と、反共産とを分けて見てみたい。共産党が正しくて、反共産がまちがっていて悪いのかといえば、そうとは言い切れそうにない。

 共産党と反共産を分けて見てみると、そこには表象(representation)が関わってくる。表象の政治がおきることになる。

 哲学でいわれる形相(エイドス)と質料(ヒュレー)をもち出してみると、形相は形式だ。ものごとのあるべき姿である。質料は内容だ。ものごとの素材である。

 形相と質料は、ぴったりと合っていなくて、ずれるのがある。形相としての共産党は、表象されたものであり、質料としての共産党とはずれている。共産党そのもの(presentation)とのあいだにずれがおきてしまう。

 悪いものであるのが反共産なのだとしているのが共産党だ。これは反共産を表象したものである。悪いものとして反共産を表象しているのがあり、形相としての反共産である。質料としての反共産は、それとはずれているのがあって、反共産そのものは、とらえづらいものだ。

 正しいものとして表象されるのが共産党であるのだとしても、じっさいにはまちがっているところもある。正しいものとして表象される共産党は、形相としての共産党だから、どちらかといえば、かくあるべき(こうであるべき)ものに当たる。

 悪いものとして表象される反共産は、ぜんぶが悪いとは言い切れず、正しいことを言っていることも中にはあるものだろう。ぜんぶが悪いのだとしてしまうと、形相としての反共産になってしまい、かくあるべきものに当たることになる。

 かくあるべきではなくて、かくある(こうである)のところを見て行く。かくあるべきは当為(sollen)であり、かくあるは実在(sein)だ。当為ではなくて、実在のところを見て行けば、共産党がまちがっているところもあるし、反共産が正しいこともあるものだろう。

 正しいだけとか、悪いだけだとしてしまうと、そういったものとして表象することになり、表象の政治になる。それだと、形相と質料のうちで、形相によるだけになってしまい、形相と質料とのあいだのずれがあるのをとり落としてしまう。

 一つの党のぜんぶを、党の長が代表できるのかといえば、そうとは言えそうにない。党の長は、その党を代表していて、表象に当たるものだ。表象に当たるものだから、形相に当たるものであり、質料とはずれがある。質料のところを見てみると、実在としての共産党には、いろいろな考えをもつ人たちがいるだろうから、それらをぜんぶもれなくくまなく党の長が代表することはできづらい。

 表象に当たるものなのが党の長だから、完ぺきに誠実なのだとまでは言えず、うそをつく。集団の上の者が、下の者にたいしてうそをつくと、危ないことになることがあるから、表象である党の長を批判することは必要なことだろう。

 ものすごいうそつきだとまでは言えないだろうけど、党の長が言っている発言(message)を、いちおううたがってみることは、場合によってはいる。長が言っていることを、何から何まですべて丸ごとうのみにはしないようにする。表象なのが党の長だから、長の意図(intention)と、長が言っていることとが、ずれていることがある。意図していることをそのまま言うとはかぎらない(つまり、うそをつくことがある)。表象には、とくにそれがつきまとう。

 参照文献 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『疑う力 ビジネスに生かす「IMV 分析」』西成活裕(にしなりかつひろ) 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『うたがいの神様』千原ジュニア 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『本当にわかる論理学』三浦俊彦 『うその倫理学』亀山純生(すみお) 『日本語の二十一世紀のために』丸谷才一 山崎正和