日本の表象と現実:国どうしが複合で相互に依存し合う関係

 祖国のために、あなたは戦えるか。その問いかけがなされていた。

 祖国のために、国民が戦う。それはいることなのだろうか。問いかけにたいしてどのように受け答えることができるのだろうか。

 祖国の語がある。問いかけの中にその語があるけど、それを国体(nationhood)の語に置きかえてみたい。

 国体をもち出してみる。祖国の代わりにそれを持ち出してみると、国体は守るけど国民は守らない。それが軍隊だ。国民のことは守らないのが軍隊なのである。

 国の公の装置なのが軍隊だ。このほかに、国の思想の傾向(ideology)の装置もあり、報道の機関などだ。たとえば日本では NHK がある。NHK は国の広報や宣伝になっているところがある。

 国民は切り捨てられる。使い捨てられる。手段や道具にされてしまう。国体のための手段や道具にされてしまうのが国民だろう。

 国体さえ守られればよい。それさえ守れればよくて、国民はいくらぎせいになってもかまわない。国民の代わりはいくらでもいるからである。かけがえがあるのが国民だ。かけがえがないのではない。

 軍隊は国民を守らない。守らないどころか、殺しさえする。自分の国の軍隊が、自分の国の国民を殺す。しばしばそれがなされる。

 たしかなもの(tangible)として日本の国はあるのか。そうとはいえそうにない。体系(system)としての日本の国は不たしかだ。穴ぼこだらけであり、いくつもの穴が開く。いまの日本はそうなっている。世界主義(globalization)が進んでいるためだ。

 関係し合うことがらが集まる。体系ができ上がる。日本の国の体系が作られる。

 人為や人工で作られたものなのが体系としての日本の国である。体系としての日本は固定化されているとは見なせそうにない。かつての戦前の大日本帝国のときといまの日本とではありようがちがう。

 体系としての日本は、固定化されていなくて、定まっていない。どこからどこまでが体系としての日本なのかが不たしかだ。ここからここまでといったようにきっちりと線を引きづらい。きっちりとは線を引けないものとして、体系としての日本の国はありつづける。

 たしかに日本の国があるといえるのであれば、樹形図状(tree)のものだ。たしかに実体としてあるとはいえず、不確かなのであれば根っこ状(rhizome)のものだ。

 しっかりとした線を引いて、分類づけがなりたつ。樹形図状であればそうできるけど、根っこ状であればそれはできづらい。分類の線がゆらぐ。自国と他国とのあいだの分類の線がゆらいでいるのがいまのありようだ。根っこ状になっているのである。

 言説としては日本の国はあるけど、実体としてはない。実体としてあるのだとするのは古い未開の擬人化の思考による。非科学のありようだ。言説としてしかあるとは言えないのが日本の国だろう。

 ほかの国と関係し合う。関係主義では、関係の第一次性(the primary of relation)がある。まず関係が先だつ。関係が先にあって、そのごに日本であるとかアメリカであるとかといったものがなりたつ。日本やアメリカなどは、関係の網の目(network)の結節の点にすぎない。

 心の中の像(image)を外に表現したものなのが表象(representation)だ。日本の国を表象することはできるけど、それはあくまでも象徴されたものにとどまる。象徴されたものとしての日本はあるけど、日本そのもの(presentation)があるとはできづらい。

 象徴や表象はできるけど、日本を直接に現前させられないのである。直接に現前したものとしての日本は、だれも目にしたことがない。日本そのものに接した人はだれもいない。全体としての日本の国は虚偽であり非真実だ。部分としてしかなりたたない。

 複合の相互の依存がある。国どうしがお互いに依存し合うのがあり、それによって国がなりたつ。その中で、外交や安全保障の政策をどうするのかでは、国どうしの外交をやって行く。外交や内交をしっかりとやって行く。国の外や内で、交通(communication)し合う。それがだいじだろう。おもてなしや客むかえ(hospitality)をすることがいる。

 民主主義において戦い合う。おたがいの頭をかち割り合わないですむ。闘技の民主主義だ。おもてなしや客むかえをやりながら、おたがいに戦い合う。民主主義ではよき好敵手(rival)はいても敵はいない。韓国の政治家の金大中(きむでじゅん)氏はそう言う。敵対の対立(antagonism)を、闘技の対立(agonism)に変えて行く。そうできるかがかぎだ。

 参照文献 『十三歳からの日本外交 それって、関係あるの!?』孫崎享(まごさきうける) 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『法哲学入門』長尾龍一 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『ナショナリズム 思考のフロンティア』姜尚中(かんさんじゅん) 『国体論 菊と星条旗白井聡(さとし) 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『グローバリゼーションとは何か 液状化する世界を読み解く』伊豫谷登士翁(いよたにとしお) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『歴史家が見る現代世界』入江昭現代思想を読む事典』今村仁司編 『象の鼻としっぽ コミュニケーションギャップのメカニズム』細谷功(ほそやいさお) 『境界線の政治学杉田敦(あつし) 『アイデンティティ(identity) / 他者性(otherness) 思考のフロンティア』細見和之(ほそみかずゆき) 『暴力 思考のフロンティア』上野成利(なりとし) 『社会学になにができるか』奥村隆編 『NHK 問題』武田徹