被災した地に行くか行かないか、政治家の選択のむずかしさ

 政治家は、災害のげんばにすぐに行くべきなのだろうか。すぐに現場にかけつけるべきなのだろうか。

 ばあい分けをしてみたい。

 十字の形の分類づけをしてみる。四つのありように整理をしてみたい。

 被災地に行く。それが良い。政治家が被災地に行ったほうが、いろいろと役に立つ。益にはたらく。その逆に、行くのは悪い。じゃまになってしまう。大した役に立たない。見せかけだけの行動になる。

 被災地に行かない。それが良い。行かないようにするのが良い。その逆に、行かないのは悪い。なまけだ。苦しんでいる人が被災地にいるのにもかかわらず、自分は安全な別の地にいてぬくぬくとしているのはよくない。

 ばあい分けをしてみたさいに、いがいと目だちづらいのが、被災地に行かないのが良いばあいだ。行かないのが良いのは、少しわかりづらい。消極のものなのが行かないことであり、その消極のことが良いのだとするのは、少しわかりづらさがある。

 わかりやすいのは、積極のものだ。被災地に行ったほうが良いとするものである。これはわかりやすさがあり、むずかしさはない。

 積極や肯定のものがもつ良さはわかりやすいのがある。それとはちがい、消極や否定のものがもつ良さはそこまでわかりやすさはない。目だちづらいものがもつ良さである。

 目だちやすいのが積極や肯定のものだけど、それが必ずしもいついかなるさいにも良いとはかぎりそうにない。状況によっては悪いことも中にはある。状況の思考を持ち出すとそうできそうだ。

 状況しだいでは、目だちづらいものである消極や否定のものが良いことがある。見落とされがちなのが消極や否定のものがもつ良さだ。

 野党の政治家で、被災地にすぐに行った人がいるけど、それは良い行動だったのだろうか。ばあい分けをしてみると、被災地に行って良いばあいがある。行ったほうが良い。それに当てはまるのかもしれないし、そうではなくて、行くのが悪いばあいに当てはまるのかもしれない。

 野党の党首たちは、こんかいの能登(のと)半島の大きな地震で、すぐに政治家たちが被災地に行くのはやめることにした。行くのは止めようとのことで互いに合意した。

 被災地に行かないことは、ばあい分けをしたさいに、良いこともあれば悪いこともある。行かないことが良いのは、目だちづらい。消極や否定のものだからだ。行かないことが積極にほめられることはあまりおきづらい。

 被災地に、来ないでほしい。そういった声もある。そのさいに、たった一つだけの声しかないわけではないのがやっかいだ。声はたった一つだけしかないのではなくて、色々な人たちの色々な声がある。

 当事者を重んじるのだとすれば、当事者である被災地の地域の長(県知事など)が、こうしてほしいと言っているのであれば、その声に従うほうがよい。

 当事者に当たる、地域の長が、こうしてほしいと言っているのにもかかわらず、その声をむししてしまうと、当事者をむしした父権主義(paternalism)におちいってしまう。

 当事者ではない第三者や局外者の政治家がしゃしゃり出ることになってしまいかねない。あくまでも当事者(に近い人)の声を重んじるべきだとすることが一つにはなりたつ。

 たとえその地域の長となる政治家(県知事など)なのだとはいっても、政治家はみんな表象(representation)だ。国民そのもの(presentation)なのではないのが政治家である。当事者に近い政治家もいれば、そこから遠い政治家もいるのがあり、国民そのものではない点ではていどのちがいにすぎない。

 心の中の像(image)を外に表現したものなのが表象だ。

 政治家がたとえどのような行動をとるのにしても、または取らないのにしても、いずれにしても表象であるところにできるだけ気をつけるようにしたい。

 右から左まで、さまざまな人たちがいる。右派から左派までだ。右派と左派とでは、持っている枠組み(framework)が互いにちがう。枠組みがちがう人どうしだと交通がなりたちづらい。互いに橋わたしをしづらいのである。

 すべての国民のいろんな声や、すべての当事者のいろんな声を、政治家がすべてすくい取れることはできないのがある。多くの声のうちの、いくつかのかぎられた声くらいは、政治家はすくい取れている見こみがある。声に、かなりとり落としがあるのである。

 多数派の声はすくい上げられやすいが、とり落とされやすい声も中にはある。従属の階層(subaltern)の声はとり落とされやすい。公平にまんべんなく色々な声をすくい上げるのはむずかしさがある。どうしても不公平になってしまいそうだ。そこで従属の階層(class)がおきることになってしまう。

 参照文献 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『クリティカル進化(シンカー)論 「OL 進化論」で学ぶ思考の技法』道田泰司(みちたやすし) 宮元博章(みやもとひろあき) 『東大人気教授が教える 思考体力を鍛える』西成活裕(にしなりかつひろ) 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『社会階層 豊かさの中の不平等』原純輔(じゅんすけ) 盛山(せいやま)和夫 『社会的排除 参加の欠如・不確かな帰属』岩田正美 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『対の思想』駒田信二(しんじ)