イスラエルに味方することの、よし悪し―イスラエルを支持しないのは悪いことなのか(イスラエルの敵を支持することになるのか)

 イスラエルを支持する。それは良いことなのだろうか。

 世界のなかで、しだいに批判の声が高まっているのが、イスラエルだ。パレスチナガザ地区を攻撃しているのがイスラエルであり、それへの批判が世界で高まっている。

 たしかに、パレスチナイスラム原理主義の集団は、イスラエルの民間の人たちへ攻撃をしかけたのがある。イスラエルの人たちが殺されてしまった。その文脈のなかで、イスラエルパレスチナガザ地区へ攻撃をしかけている。

 アメリカや欧州の国は、イスラエルを支持している。イスラエルを良しとしているのである。

 立ち場として、イスラエルの味方がある。イスラエルの味方は、イスラエルのやっていることの支持者だ。敵である、パレスチナイスラム原理主義の集団を悪ものだとしていて、批判している。

 たった一つだけの立ち場があるのだとは言えそうにない。たった一つだけしか立ち場がないのだとすれば、イスラエルの味方だけしかいない。イスラエルの敵は悪者だとするのしかない。

 立ち場がいくつかあるのであれば、逆説(paradox)がはたらく。イスラエルの味方なのは良いのだけではなくて、それが悪い。イスラエルを良しとするだけではなくて、イスラエルがやっていることを批判する。イスラエルの行動を批判するのが良いことになる。

 中東の紛争を見てみると、逆説がはたらいてしまっていそうだ。アメリカや欧州の国は、イスラエルを支持している。イスラエルを支持すれば、中東の紛争がうまく片づくのかといえば、そうとは言えそうにない。中東の紛争が深まってしまっていて、パレスチナの人たちが殺されてしまっている。

 正義の味方なのがイスラエルであり、イスラエルを支持しさえすれば、ものごとが良い方に向かう。そうであればすごく単純だけど、じっさいの現実はそこまで単純だとは言えそうにない。じっさいの現実では、逆説が働いているのがあり、イスラエルを支持することが、必ずしも良いことではなくなっているところがある。

 対立がおきているのが中東だ。対立が起きているさいに、対立し合う二つの項(こう)がある。イスラエルを支持するだけだと、一つの項をとり上げることにしかならない。もう一つの項を切り捨てて捨象(しゃしょう)してしまっているのである。

 二つの対立し合う項どうしがあるのであれば、そのうちの一つだけをとり上げるのでは十分ではない。一つの項だけをとり上げて、その一つだけを良しとするのだと、かたよりがおきてしまう。

 アメリカや欧州の国は、二つの項が対立し合っているのにもかかわらず、そのうちの一つの項しかとり上げなかった。もう一つの項を捨象したのだ。一つの項だけをとり上げて、それを象徴化(symbolize)したのがアメリカや欧州の国だろう。

 すごく悪いものなのが、パレスチナイスラム原理主義の集団だ。悪ものなのだと象徴化した。アメリカや欧州の国は、善の項と悪の項といったような象徴化を行なった。明と暗といったようなふうにしたのである。対照のとらえ方であり、わかりやすさがあるけど、きちんとした分析にはならないものである。

 関係し合っているのが、二つの対立し合う項どうしだ。関係し合うことでしか、有るとは言えないものである。イスラエルパレスチナが対立し合っているとして、それらは関係し合うことでしか、有るとは言えないものである。イスラエルだけが有るとは言えないし、パレスチナだけが有るとも言えそうにない。関係の第一次性だ。関係主義からすればそうとらえることが成り立つ。

 正の価値をもつ項と、負の価値をもつ項がある。イスラエルは正の価値をもつ項であり、それの敵は負の価値をもつ。アメリカや欧州の国は、正の価値をもつ項だけを良しとした。正の項だけをよしとする構築のし方をしたのである。

 一から作り直すことなのが脱構築(deconstruction)だ。脱構築をしてみると、負の項のほうがむしろ本質によるのがある。負の項がなければ、正とされる項もまたない。負とされる項があってはじめて、正とされる項がなりたつ。

 敵は負の項に当たる。負の項(敵)を捨象しないようにする。悪いものだと象徴化するのにまったをかけるようにしたい。良い方である正の項だけをとり上げて終わりにするのではなくて、二つの対立し合う項どうしを共にとり上げてゆく。負の項を否認しないようにして、承認して行く。たとえ負の項であったとしても、承認するようにして、やり取りをし合う。対話の交通をして行く。

 正の項だとされているイスラエルがやるべきなのは、負の項との対話だろう。正の項と負の項とのあいだに、きつい分断の線を引かないようにして行く。きつい分断の線を引いてしまうと、国であれば、国家主義(nationalism)がうんと強まりすぎてしまう。

 参照文献 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『脱構築 思考のフロンティア』守中高明構築主義とは何か』上野千鶴子編 『ナショナリズム 思考のフロンティア』姜尚中(かんさんじゅん) 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『境界線の政治学杉田敦(あつし) 『本当にわかる論理学』三浦俊彦 『暴力 思考のフロンティア』上野成利(なりとし) 『信頼学の教室』中谷内一也(なかやちかずや)