ウクライナとロシアの戦争と、うその秩序―秩序と混沌の、相互作用

 ウクライナとロシアの戦争がある。ロシアはウクライナに攻撃をしかけている。そのことをどのように見なせるだろうか。

 秩序と混沌の二つの点から、戦争を見てみたい。

 秩序(cosmos)は統一された状態だ。混沌(chaos)はばらばらの状態だ。

 秩序が混沌を呼びこむ。混沌が秩序を呼びこむ。そうした循環がおきる。

 戦争は、混沌を引きおこす。ばらばらの状態をまねく。それまでの、統一された状態をこわす。

 体系(system)としての国がこわれてしまうのが戦争だ。革命としてはたらくのが戦争である。戦争革命説だ。歴史家のE・H・カー氏による。

 関係し合うことがらが集まったものなのが体系だ。ウクライナとロシアだったら、ウクライナの体系の中に、ロシアが入りこんでいるのがある。お互いにとなり合う国どうしだから、それぞれの体系が、他者(ウクライナだったら、ロシア)を内にふくむ。

 ばらばらな状態なだけではなくて、統一された状態でもあるのが戦争だ。戦争によって、かえって統一された状態がつくり出される。国の中がまったくばらばらな状態だと、戦争は行なえない。集団が一丸になるのでないと戦争はできないから、秩序によってなされるのが戦争だ。

 すべての国民が動員(mobilization)されることになるのが戦争である。国の総動員の体制である。全体主義(totalitarianism)だ。みんなが同じ(一つの)考えを持つことを強要(強制)する体制なのが全体主義だ。

 性の秩序がとられるのが戦争にはある。性の規範が強まる。規範が強まるのがあり、男性や女性はかくあるべき、とされる。性の本質主義だ。男性と女性が分けられて、性別の役割分担がとられる。男性らしさと女性らしさがくっきりと分けられて、その中間はよしとされない。男性らしくない男性や、女性らしくない女性はよしとされづらい。

 平和なうちは、秩序がなりたっている。統一された状態が保たれているけど、そのいっぽうで、ばらばらな状態でもある。いまの世の中は生の多様化が進んでいるので、一つの型が通じづらい。生がどんどんばらばらになって行っている。

 生が多様化することで、一つの型が通じづらくなり、悩みがおきてくる。平和で幸福だとは必ずしもならず、悩みが深まってしまい、不幸がおきる。制度は固さをもっているのがあり、生の多様化に応じることができていない。そこに落とし穴である陥穽(かんせい)がおきてしまう。古い制度と、新しいありようとのあいだにずれがおきる。

 秩序でもあり、混沌でもあるのが戦争だろう。それと同じように、秩序でもあり混沌でもあるのが平和だ。戦争によって、秩序が築かれもするし、混沌になりもする。平和によって、秩序が保たれもするし、混沌がおきもする。

 戦争をやっているからといって、まったく何もかもがばらばらの状態になるのではない。国の中で、上から秩序が築かれることになる。そうでないと、戦争を行なえない。

 平和だからといって、どこもかしこも秩序が築かれていて、統一された状態にあるのではない。国の中がばらばらの状態になっているのがあり、世界主義(globalization)で世界化が進んでいっている。国の中にいくつもの穴ぼこが空いていて、体系にいっぱい穴が空きまくっている。

 穴ぼこだらけになっているのが体系だ。多孔化しているのがいまの国のありようだが、穴を見えなくさせて、穴にフタのおおい(cover)をかぶせる。穴を見えなくさせるはたらきがあるのが戦争(または戦争の前夜)だ。

 参照文献 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『グローバリゼーションとは何か 液状化する世界を読み解く』伊豫谷登士翁(いよたにとしお) 『悩める日本人 「人生案内」に見る現代社会の姿』山田昌弘 『大学受験に強くなる教養講座』横山雅彦 『近代日本の戦争と政治』三谷太一郎 『アイデンティティ(identity) / 他者性(otherness) 思考のフロンティア』細見和之(ほそみかずゆき) 『ジェンダー / セクシュアリティ 思考のフロンティア』田崎英明構築主義とは何か』上野千鶴子