ロシアとウクライナの戦争と、国のために戦うのはよいことなのかどうか―国のために戦うことへの反応のしかた

 自国のために戦っているウクライナの国民に感動した。与党である自由民主党の政治家は、そうしたことを言っていた。

 ロシアとウクライナのあいだで戦争がおきている。その中で、自国を守るために戦っているウクライナの国民に感動することはふさわしいことなのだろうか。

 戦争で戦っているウクライナの国民に、感動したり敬服したりすることは、よいことだと言えるのかといえば、必ずしもそう言えそうにはない。どういった中においての、時と場所と状況(time、place、occasion)を見てみると、いまの世界は、社会契約論でいうところの自然状態つまり戦争状態(natural state)になっている。

 自然状態つまり戦争状態になっているのが、ロシアとウクライナで戦争がおきているいまのありようだ。戦争が止まれば、いちおうは社会状態(civil state)に移行できたことをしめす。

 西洋の弁証法(dialectic)では、正と反と合がある中で、正と反が互いにぶつかり合っているのが、戦争がおきているいまのありようだ。この正と反のぶつかり合いは、不毛なものだ。できるだけ早くに合に止揚(aufheben)されることがいる。

 自然状態では、国々の国々にたいする闘争(the war of all against all)がおきている。国が自己保存をなすために、ほかの国と戦い合う。その戦いには終わりがない。自国の名誉のために、自国が虚栄心にかられてほかの国と戦いつづける。

 よくないあり方なのが自然状態だから、できるだけ早くに社会状態に移ることがいる。自然状態の中で、自国のために戦っている国民に、感動したり敬服したりしているばあいではない。そう言うことが言えるだろう。

 どの国でも、自己保存をなそうとするのがあり、自国にたいする愛をもつ。自国への愛をもつのは、必ずしもよいことではない。自国への愛があるために、ほかの国とぶつかり合ってしまう。戦争がおきることになってしまう。たがいに、自民族中心主義(ethnocentrism)による国どうしが、戦争を行ない合う。

 国がからむことだと、自分の国への愛といったことになって、国どうしがぶつかり合うことがおきてくる。国がからむとどうしてもそうなってしまうのがあり、戦争をなくすことにはつながらない。

 戦争がおきてしまうのは、国が自己保存をなそうとすることによる。自国が自己保存をなそうとすることに、国民が手助けをするのは、戦争をなくすことにつながるとは言えない。戦争をうながしてしまうところがある。

 自国が自己保存をなそうとすることの手助けをするために、国民が戦いにおもむくのは、感動や敬服するのに必ずしもあたいすることだとは言えそうにない。感動や敬服するのに必ずしもあたいしないのは、戦争をうながしてしまうところがあるからだ。

 戦争をしないようにするためには、国がからむようなことから脱することがいる。国がからむようなことに参加するのであるよりは、そこから脱する。どこかの国に帰属して、その国のはた(または象徴)のもとで何かを行なうのであるよりは、どこの国のはたや象徴にもよらないようにする。

 どこかの国を示すはたや象徴のもとにいるのではなくて、どこの国でもないような中立のはたや象徴のもとにあるようにする。どこの国でもないような中立のはたや象徴では、たとえばたんに、何かの理念を示すものがあげられる。平和などの理念だ。中立のものであれば、国がからまなくなり、国から脱せられて、超国家(trans-national)のあり方になれるから、戦争になるのを少しは避けやすい。

 国を超えるような超国家のあり方であれば、国があまりからまなくなるから、戦争がおきづらい。いま求められているのは、国を超えるような超国家のあり方だろう。国を超えて、国を横断(trans)して、国どうしの橋わたし(bridging)をして行く。

 自国のために戦う国民に感動したり敬服したりすると、国を超えるような超国家のあり方にはならない。国をよしとすることへ感動したり敬服したりするのではなくて、国を超える超国家のあり方になるようにして行きたい。

 たんに、戦争がおきているかおきていないかではなくて、そもそも世界はつねに自然状態になっている。世界は社会状態になれていない。世界には、国における中央政府に当たるものがない。世界政府がない。世界が自然状態におちいっている中でおきたのが、ロシアとウクライナのあいだの戦争だろう。この戦争がたとえおさまったとしても(できるだけ早くにおさまるべきだが)、世界が自然状態であることに変わりはない。

 参照文献 『リヴァイアサン 近代国家の思想と歴史』長尾龍一現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『日本国民のための愛国の教科書』将基面貴巳(しょうぎめんたかし) 『軍旗はためく下に』結城昌治(ゆうきしょうじ) 『愛国心田原総一朗 西部邁(すすむ) 姜尚中(かんさんじゅん)