ロシアとウクライナの戦争と、国はあったほうがよいのかどうか―国の自明性の喪失

 ロシアとウクライナのあいだで戦争がおきている。

 戦争がおきていることについてをどのように見なすことができるだろうか。

 いろいろに戦争についてを見なすことができる中で、国があることの意味や理由をとり上げてみたい。

 国どうしが戦争をやっている中で、それらの国において、国があることの意味や理由ははたしてあるのだろうか。戦争をやるくらいなら、それらの国の、国があることの意味や理由があるとは言えないだろう。戦争をやるくらいなら、国は無いほうがよい。

 大きな集団なのが国だが、それがあることの意味や理由がなくなっている。大きな集団としての国があることが、自明ではなくなっている。国があることの意味や理由が、自明なものではなくなっている。それらのことが、戦争の中で浮かび上がっている。

 国があることがよく働くのではなくて、わざわいしてしまう。国がもつ正の順機能(function)よりも、負の逆機能(dysfunction)のほうが上まわってしまう。戦争がおきてしまうと、正の順機能よりも負の逆機能のほうがうんと上まわることになる。

 たとえ戦争がおきていなくても、国がもつ順機能よりも逆機能のほうが上まわっている。国があることで得られるものよりも、失うもののほうが多くなっている。きびしく見てみればそう言うことができそうだ。

 経済が右肩上がりの成長をしているときには、国があることが自明とされやすい。国の中の多くの人が得をしやすい。国の中で、一つの型がとられて、それが人々に押しつけられる。一つの標準の型が通用する。

 ずっと経済が成長しつづけることはできず、どこかでのび悩みがおきる。頭うちになる。成長の過大化の局面が失速して、過少化や過小化の局面に入って行く。

 大きく経済が成長しているときは、国による順機能が大きくなる。正のことがらが目だち、負のことがらは目だちづらくなる。いつまでも成長しつづけることはできづらいから、のび悩みがおきはじめると、国による順機能よりも逆機能のほうが大きくなる。

 国がもつ順機能よりも、逆機能のほうが上まわり出すと、国があることの意味や理由が失われて行く。国があることの自明性がなくなって行く。国の中の多くの人が得をするのではなくなる。それまではできていた利益の分配の政治ができなくなり、不利益の分配の政治をせざるをえなくなる。

 利益の分配の政治ができなくなり、不利益の分配の政治をせざるをえなくなったのであれば、国があることで損や害がおきてくる。国があることによる損や害が目につくようになり、それらが目だち出す。

 意味や理由が失われて、自明性がなくなった中で、国があることに正当性があるのだとすれば、そうとうにしっかりとした社会関係(public relations)や説明責任(accountability)を国は果たさなければならない。

 よほどにしっかりとした社会関係や説明責任を果たさなければ、国があることによって損や害がおきることになり、順機能よりも逆機能のほうが上まわることになる。そのさいたるものが戦争がおきることだろう。

 戦争をやるようであれば、国があることに正当性があるとは言えそうにない。戦争をやらないのだとしても、国がしっかりと社会関係や説明責任を果たさないのであれば、国があることの正当性があるとは言えない。ただたんに国があるといったことだけでは、それがよく働くことにはならなくなっている。悪くはたらくことがおきやすい。

 よほどにしっかりとした社会関係や説明責任を果たさないのであれば、国は無いほうがよい。きびしく言えるのだとすればそう言うことがなりたつ。多くの人に得になるような、利益の分配の政治ができる国は別として、それができない多くの国は、国があることがそのまま多くの人によく働くのではなくなっている。国があることの正当性をきびしく問いかけて行かなければならない。

 へたをすると、国があることそのものが、悪のかたまり(またはうそのかたまり)のようになる。ロシアのことをきびしく見れば、そう言えるかもしれない。ロシアにかぎらず、アメリカや中国や、日本についても言えることだ。ロシアやアメリカや中国や日本は、国が帝国主義になっていて、きちんと社会関係や説明責任を果たせていないのがある。アメリカは国の中の制度はややよいけど、国の外では悪いところが目だつ。

 参照文献 『「不利益分配」社会 個人と政治の新しい関係』高瀬淳一 『理性と権力 生産主義的理性批判の試み』今村仁司 『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』金田信一郎 『「説明責任」とは何か メディア戦略の視点から考える』井之上喬(たかし) 『入門 パブリック・リレーションズ』井之上喬 『相対化の時代』坂本義和 『社会を結びなおす 教育・仕事・家族の連携へ(岩波ブックレット)』本田由紀