医療の崩壊のおそれと、不利益分配の政治

 感染力が高いとされるウイルスのデルタ株が日本の社会のなかで広がっている。医療が崩壊することが危ぶまれているが、そのことについてをどのように見なすことができるだろうか。

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染が広がっていて、医療の崩壊がおきかねないのは、政治において不利益分配の政治がおきていることをしめす。不利益分配の政治で、かしこい形でうまく軟着陸(soft landing)をすることに失敗していて、荒い着陸(hard landing)がおきている。

 もともと日本の医療は色々なまずさを抱えていた。医療費の財源などのまずさだ。そのまずさに上乗せされる形でまずくなっているのがいまのありようだろう。ウイルスの感染がおきてはじめて医療がきびしくなったのではなくて、もとからきびしさがあって、そこにさらにウイルスの感染の広がりがおきたことで、よけいにますますきびしくなっているのである。

 政治においてかしこい形でうまく軟着陸するためには、問題を先送りしないようにしないとならない。日本は色々なことを先送りしてきているので、問題が山積している。世界のなかで課題先進国になっている。

 日本の政治に賢さはのぞみづらいので、かしこい形でうまく軟着陸することはできず、あとは荒い着陸しか残されていない。いまその荒い着陸がおきている。そう見なせそうだ。

 やさしく着陸させようとするのではなくて、かなりらんぼうな形で着陸させようとしているのが日本の政権だ。らんぼうさがおきているのは、不利益分配の政治がおきていることをしめす。だれに不利益を押しつけるのかの押しつけ合いの争いがおきている。

 日本の政治に賢さをのぞむことができないのであれば、国民が不利益を引きうけることにならざるをえない。全体に等しく不利益が分配されるのではなくて、かなり不平等な形で不利益が押しつけられることになる。

 みんなに利益を分配することができなくなっていて、不利益分配の政治を行なうことがもはや避けて通れなくなっている。ウイルスの感染の広がりはそれを可視化することになった。不可視にされていて目に見えづらくされていたのが、おもてに出てきてやや見えやすくなったのである。

 もはやみんなに利益を分配する利益政治はできなくなっていて、不利益分配の政治を行なうのを避けては通れなくなっているのだから、そのことをきちんとまともにとり上げるようにするべきだろう。まともにとり上げるのではなくて、ちょっとずれた形でとり上げているのがあり、政権の姿勢のなかにそれがうかがえるのがある。

 政権の姿勢としては、みんなに利益を分配する利益政治がもはやできなくなっているから、不利益分配の政治をやるしかない。それを避けては通れなくなっていて、そのことを国民にきちんと説明してはいないが、ちゃくちゃくとそれを進めようとしているものだろう。国民に説明をすることを抜きにしてそれをやろうとしているのである。

 ほんとうであれば、理想論としてはウイルスに感染した国民はすぐに病院に入院できるべきだ。適した医療を受けられるべきだ。病院の医師などの医療関係者は、ゆとりをもって治療の行為に当たれるべきである。

 理想論としては充実した医療のあり方になっているべきだけど、現実論としてはそうはなっていない。その落差があるのはどうしてなのかといえば、そこにはいろいろな理由があるかもしれないが、一つには不利益分配の政治を避けて通れなくなっているのがあらわれている。医療の関係者や国民が不利益をこうむらざるをえなくなっている。誰かに不利益が押しつけられてしまっている。

 理想論と現実論とのあいだに落差がまったくないのが理想だ。落差がまったくなければ、理想どおりのことが現実に行なわれていることをしめす。そうであればいちばんのぞましいけど、そうはなっていないのが現実だ。

 国民がウイルスに感染しても病院に入ることができなくて、自宅療養つまり自宅でほぼ放ったらかしになっている。なぜそうしたことがおきているのかといえば、それは不利益分配の政治がおきていて、不利益が国民の一部または全体に押しつけられているからだろう。

 のぞましくはないことがおきてしまっているが、政治においてまともに不利益分配の政治をとり上げようとしてこなかったことがわざわいしている。やっかいなことを先送りしつづけてきたことがわざわいしている。理想論はひとまず置いておけるとすると、現実論においては、不利益分配の政治を避けて通ろうとするのではなくてそれをできるだけまともにとり上げるようにするべきである。甘さが通じづらく、きびしい現実に向き合わざるをえなくなっているのが日本の国のありさまだと言えそうだ。

 参照文献 『「不利益分配」社会 個人と政治の新しい関係』高瀬淳一 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『社会問題の社会学赤川学