悪い文書(怪文書)と、よい政治家―よい文書と、悪いまたはだめな政治家(政治屋)

 文書が、あやしい。内容が、正確ではない。省庁(総務省)から出てきた文書についてそう言っているのが、自民党の元総務相だ。

 公文書が省庁から出てきたけど、それはあやしいものなのだろうか。怪文書なのだろうか。

 それが公文書であるのと、怪文書であるのとは、はたして両立することなのかがいぶかしい。公文書であり、なおかつ怪文書でもあるものなど、はたしてあるのかがぎもんだ。

 公文書や怪文書は、どちらもが文書であるのが共通点だ。

 下位に当たるのが公文書や怪文書だ。次元や水準をうえに上げてみて、上位(meta)の点から見てみると、たがいに相違点をもつ文書なのだとしても、文書である点では共通点をもつ。

 修辞学では、議論の型(topos)で、類または定義からの議論がある。この型でいえば、それが文書であると言えるのなら、文書の類に当てはまるものだ。

 類は、何々ハ何々であるの、何々ハ(もしくは何々である)に当たるものだ。それは文書であると言えるのなら、文書の類に当てはまることになる。類は、集合や範ちゅうのようなものである。

 もしもそれが文書ではないのであれば、文書の類には当てはまらない。

 文書の類に当てはまるとして、それに当てはまっている一つひとつのものは種だ。類の中の種に当たるのが公文書や怪文書だ。

 文書の類の中には、色々な種があって、公文書もあれば怪文書もある。

 確からしさの確度の点からすると、省庁から出てきた文書は、(文書であるといえるのにくわえて)公文書であるとはいえそうだ。公文書ではないとはいえそうにない。

 公文書であるとは言えるから、私文書であるとはいえそうにない。私文書ではないとは言える。

 自由民主党の元総務相が言っているように、怪文書であると言えるのかといえば、そうとは言い切れそうにない。怪文書だと言っているのは、元総務相とそのとり巻きくらいしかいないからだ。

 怪文書だとは言い切れないのがあって、それをちがうふうにいえば、怪文書ではないと言える見こみがある。怪文書ではなくて、(ちゃんとした)公文書なのである。

 出もとの点を見てみると、省庁から出てきた公文書は、省庁が出もとだ。役人が作った文書である。

 それがあやしい文書なのだと言っているのが元総務相だけど、その発言の出もとは元総務相だ。元総務相は政治家であり、政治家が言うことは、うそであることがしばしばある。

 目的の点から見てみると、公文書は、みんなのために作られている。人々のために作られているものであり、人々に役だつために作られて、記録されて、保存される。

 政治家がどういう目的でものを言うのかといえば、自分の保身のためにものを言うことがしばしばある。国民のために政治家が何かものを言うことはあんまりない。とくに与党の政治家にはそれが大きい。

 国民のために何かをするのではなくて、自分が少しでも票を得るために何かをすることが多いのが政治家だ。

 何をうのみにすることができないのかといえば、公文書であるよりも、政治家が言うことだ。政治家は、国民そのもの(presentation)ではなくて、その代理(representation)だから、うそを言うことが少なからずある。表象なのが政治家だ。

 起きたことそのものが記されているのではないのが公文書だから、そこに記されているのは表象ではある。表象に当たるのが、公文書(広くいえば文書)の中身だから、完ぺきな正確さを持っているのだとはいえそうにない。

 文書(の中身)も、政治家も、どちらも表象ではあるけど、何に気をつけるべきなのかといえば、政治家(の言うこと)だ。とくに気をつけることがいるのが政治家が言うことだから、政治家が言うことにたいして批判をすることがいる。政治家が言うことは、そのまま丸ごとうのみにすることはできないものであり、うそをついている見こみがけっこうある。

 表象にあたるのが政治家であり、政治家がうそをついたさいには、国民に損や害がおきる。日本の国の政治では、政治家がうそをつくことが多くおきていて、それが甘く許されてしまっている。そこに危なさがある。

 おなじ表象に当たることでも、へいきでいくらでもうそをつけてしまうのが政治家であり、文書(の中身)について政治家がうそをつくことがおきてしまう。それそのものではないのが文書と政治家だから、完ぺきな正確さとか、国民そのものだとかといったものは幻想だ。国民そのものとは合っていなくてずれているのが政治家だから、文書でいえば(文書で例えれば)、正確さが欠けているのが政治家だ。

 参照文献 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『本当にわかる論理学』三浦俊彦 『議論入門 負けないための五つの技術』香西秀信 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『うその倫理学』亀山純生(すみお) 『国家と秘密 隠される公文書』久保亨(とおる) 瀬畑源(せばたはじめ) 『うたがいの神様』千原ジュニア 『情報政治学講義』高瀬淳一