軍事と、現実と、非現実―現実の玉虫色さと、テクストとしての現実

 軍事を強めて行くのは、現実主義(realism)なのだろうか。軍備の縮小を言って行くのは、お花畑であり、現実から離れたものなのだろうか。

 軍事を強めて、強兵にして行くのは、現実主義に根ざしたものであるとは必ずしも言えそうにない。軍備の拡張は、どういうことによっているのかといえば、現実主義によっているのであるよりも、疑似の環境や、思想の傾向(ideology)によっているものだ。

 日本が置かれている東アジアでは、北朝鮮がいっぱいミサイルをうっている。中国は軍事の力をどんどん強めていっている。それで日本の国に危険がおきていて、危険性が高まっていると言われている。

 日本に危険性が高まっていると言われているのは、あやしさがある。それを丸ごと頭からうのみにはしづらい。現実主義そのものであれば、現実にまさに日本の国に危険がせまっていて、危険性が高まっていることになるけど、そうではなくて、疑似の環境になっているのや、思想の傾向があることをくみ入れないとならない。

 すごいたくさんミサイルをうっているのが北朝鮮だけど、これは疑似の環境においてのものだ。ミサイルをいっぱいうっているのだとはいっても、それをじっさいにじかに目にした人はいないだろう。だれもミサイルを見た人はいないだろうし、それによって害や損を受けた人も(いまのところは)いない。

 疑似の環境では、現実から認識がおきるのではなくて、その逆に認識から現実がつくり出される。枠組み(framework)をとおして現実を見るのがあって、どういう枠組みを持っているのかによって、どういう現実の見なしかたになるのかが変わる。玉虫色なのが現実だから、枠組み(ものの見なし方の角度や視点)がちがうと、ちがう現実の見なし方になる。

 いくら北朝鮮がミサイルをたくさんうっているのだとはいっても、それが客観や本質によくないことだとはいえそうにない。だれもそれをじかに見た人がいないし、それによって害や損を受けている人はいないから、日本の国にとってそれが問題と言えるものなのかどうかは定かではない。問題ではない(問題の内因性がない)、と見なすこともなりたつ。構築主義(constructionism)から言えばそうできる。

 どんどん軍事の力を強めていっているのが中国だけど、さかのぼって見てみると、そもそもの話として、ずっといぜんから中国の軍事の力は強くて高かった。いまにはじまったことではなくて、いぜんから中国は国の力が強かったのがあり、日本がかなう国ではなかった。それを日本はまちがって、中国をみくびって、戦争をしかけて、中国に負けたのである。

 戦前の日中戦争のときは、日本は中国をみくびって、下に見て、中国をこらしめるといったことで戦争をやったけど、日本は勝つことができずに負けることになった。大国なのが中国だから、ずっと前から日本がかなう相手ではなかったのである。

 力と力でぶつかり合って、日本が中国にかなうのだと見なすことこそが、現実から離れたことだろう。お花畑に当たることだろう。戦前の日中戦争のときには、日本は現実から離れたお花畑の見なし方におちいって、中国をこらしめてやるといったことで戦争をやって、それで日本が中国に負けることになった。

 いくら日本の国をとり巻くまわりのありようが危なくなっているのだとはいっても、それは生(なま)の現実であるよりも、つくられた疑似の環境によるものだ。人為や人工の構築性があるものである。われわれの生が、疑似の環境の中に置かれているのがあるから、色々なものが意図して作り出されているのがある。

 日本の国がかたよった思想の傾向をもっていて、それによってよくない悪い国なんかを作り出していっている。日本の国にとってよくない悪い国を作り出すのは、それを対象化することだ。対象化とは、作ることであり、生産することだ。その対象化のあり方に気をつけるようにして行きたい。たとえば、北朝鮮や中国なんかを、悪い国だとして対象化しているのがあるけど、その対象化のあり方をうたがうことがなりたつ。

 アメリカはよい国で、北朝鮮や中国は悪い国なのだといった対象化のしかたを日本はやっているけど、それを改めるようにして、アメリカを警戒することがいるし、北朝鮮や中国をもっとよく(深く)知って行くことがいるものだろう。

 (たとえば、どこからどう見ても日本にとってよい国なのがアメリカだといったように)ほかの国のことをまちがって対象化してしまっていることが多いから、それを改めるようにして、軍事の力を強めるのではなくて、国どうしの交通をどんどん深めるようにして行くようにしたい。

 参照文献 『情報政治学講義』高瀬淳一 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『歴史を繰り返すな』坂野潤治(ばんのじゅんじ) 山口二郎 『日本人はなぜ存在するか』與那覇潤(よなはじゅん) 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『超入門!現代文学理論講座』亀井秀雄 蓼沼(たでぬま)正美 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき)