強い国が、戦争で勝てるのか―軍事の力(hard power)と、速度

 ロシアは、ウクライナとの戦争で、おもったようには勝つことができていないのだという。

 なぜロシアはおもったよりも苦しい戦いをせざるをえなくなっているのだろうか。

 国際連合を通さないで、一国だけで、単独の行動をとったのがロシアだ。

 ロシアは国連を通さないで戦争をやったので、おもうように勝つことができないでいる。

 ことわざでは、いそがば回れ(The longest way round is the shortest way home.)と言われるのがある。ロシアは、いそいで戦争をやったので、かえって遠まわりになっている。国連を通さないで、いそいで戦争をやりはじめたから、はやいようでいて遅くなっている。

 ロシアにかぎらず、たとえどのような国であったとしても、国連を通さないで一国だけで単独で戦争をやりはじめたら、いまのロシアと同じようなはめにおちいることになることがおしはかれる。いそがば回れになる。

 何がその国に強さをもたらすのかといえば、ちゃんと国連を通して、そのうえで行動をすることだろう。国連を通すようにして、ほかのいろいろな国から納得をとりつけて、そのあとに行動をするようにすれば、まちがいを防ぎやすい。

 いそがば回れにならないようにして、科学のゆとりをもつ。はやくに行動をおこそうとするのではなくて、いっけんすると遠まわりに見える道をとるようにして、過程(process)を重んじて行く。

 科学のゆとりをもつようにしないと、はやいつもりが遅くなることになってしまう。はやさをとるのではなくて、いっけんすると遠まわりに見える道をとるようにして、遠まわりであるように見えてもじつはそれが一番はやいあり方をとるようにできればよい。

 はやさが遅さになり、遅さがはやさになることがあるから、そうなるのをくみ入れるようにしたい。はやいのは、たんにはやいのではなくて、それが遅さをまねく。遅いのは、たんに遅いのではなくて、それがはやさをまねく。逆にはたらく。

 順説(orthodox)でやってしまったのがロシアだけど、逆(paradox)に出たのがいまのありようだろう。ちゃんとあらかじめ国連を通すようにしていれば、いっけんすると遅いけど、その順説が逆にはたらくのがのぞめて、ロシアがまちがった行動をとるのを防ぐことが見こめた。まちがいを防ぎやすいので、かえってはやくなるのである。

 時間がかかってしまい、もたもたすることになり、遅くなってしまうようなことを、ぜんぶすっ飛ばしたのがロシアだろう。過程を軽んじている。こうであるべきだとする、かくあるべきの当為(sollen)によっていて、その一つの考え(doxa)だけで進んでいった。

 ロシアの国の中には、一つの考えだけではなくて、いろいろな考えが人それぞれにある。いろいろな考えがあるのが、かくあるの実在(sein)のロシアのありようだろう。実在をていねいに見るようにしたり、国連を通すようにしたりするのは、時間がかかってもたもたすることではあるけど、そのほうがかえってはやい。

 いろいろな国々がもっている考えや、いろいろなロシアの人たちがもっている考えを、ていねいに見て行く。そうすれば、かくあるの実在をくみ入れることができたけど、それをやらないで、かくあるべきの当為によってつっ走ったのがロシアだろう。

 かくあるべきの当為によるのは、すごくはやいようであっても、それはさっかくにすぎず、遅くなってしまう。いろいろな国々や、いろいろな国内外の人々の、かくあるの実在をくみ入れたほうが、遅いようであっても、はやくなる。

 はやくすることへの動機づけ(incentive)は高まりやすいが、遅くすることへの動機づけはおきづらい。はやくやろうとしがちであり、遅くしようとしづらい。加速しようとはしやすいが、減速しようとはしづらく、抑制(checks)をかけづらい。

 思考では、はやいのと遅いのがあることが、学者のダニエル・カーネマン氏によって言われている。はやい思考が主になりやすく、動機づけが高まりやすいが、遅い思考は行なわれづらい。はやい思考は使われやすいけど、遅い思考は使われづらいのがある。

 ロシアはあらかじめ国連を通していれば、減速させることができて、抑制をかけることが見こめた。それをやらないで、加速への動機づけだけがかかっていて、加速することだけがなされた。減速や抑制をすることには動機づけがおきづらくて、それらをやりづらいことが、ふまえられていなかった。減速や抑制のしづらさやむずかしさを、十分に重んじなければならないのである。

 参照文献 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ) 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『理性と権力 生産主義的理性批判の試み』今村仁司 『思考のレッスン』丸谷才一