日本のお金は、日本のために使うべきなのか―何が日本のためになることなのか

 日本人のために、お金を使うべきだ。日本人をさしおいて、ほかの国のためにお金を使うべきではない。そう言われるのがある。

 まずはじめに、日本人のためにお金を使うようにするべきなのだろうか。日本人よりも先に、ほかの国にお金を使ってはいけないのだろうか。必ずしもそう言うことは言えそうにない。

 日本人にお金を使うべきだとするさいに、そもそも日本人とは何なのか(だれなのか)は必ずしも自明ではない。日本人とは何かの自明性は揺らいでいて、よくわからないところがある。

 自明性が揺らいでいるのがあり、日本人とそれ以外の国の人とのあいだに、はっきりとした線を引きづらい。日本人とそれ以外の国の人とのあいだに引かれる線が揺らいでいる。はっきりと区別できなくなっている。

 お金について見てみると、日本の国のお金とはいっても、そもそも日本の国の財政では、税収がぜんぜん足りていない。税収が大きく不足していて、日本人だけではまかなえていない。未来の日本人に借金を背負わせつづけているし、過去の日本人が築いてきたものを食いつぶしつづけている。

 自分たちだけで何とかやって行けているのではなくて、他の人たちの力によって、いまの日本人はかろうじてやって行けている。未来の日本人や過去の日本人は、いまの日本人にとっては他国の人たちだと言っても必ずしも言いすぎではない。

 他国の人を見てみると、日本の国の中には在日の人たちがいる。在日の人たちにお金を使うのは、日本人ではないほかの国の人たちにお金を使うことになるのだろうか。日本人にお金を使うことになるのか、そうではないことになるのかは置いておくとして、在日の人たちは少数派だから、少数派にたいして承認と配分の正義をもっとやって行かないとならない。

 学生で言うと、日本の学生をさしおいて、他の国からやってきた留学生に日本のお金を使うのはよくないことなのだろうか。留学生にお金を使うのは、必ずしもよくないことではない。そこには一定の合理性があると言える。

 国の政策として留学生にお金を使うのには合理性があり、日本に移民を受け入れることにつながる。留学生にお金を使うのは、理にかなっているところがあり、日本の国の利益になる見こみはそれほど小さくない。うまくすれば、留学生が日本の国に住みつづけてくれるかもしれないし、日本とほかの国とのあいだの交通を高めてくれる橋わたしの役がのぞめる。

 日本の国の学生とはいっても、すべての学生が学問にやる気があるわけではないし、すべての学生が優秀なのでもない。すべての学生が、学校で学問をやったほうがよいとは言い切れないし、学生および日本の国にとって、まちがいなくよく働いて益になるとは言い切れそうにない。

 まず何よりも先に、日本人や日本の国にたいしてお金を使うようにするべきだとはいっても、それがよいことだとはかぎらない。日本人の中には、いろいろな階層(class)があるから、たとえば性でいえば、男性と女性のあいだの階層の格差を何とかするべきであり、日本人の全体にであるよりも、劣の階層にたいして手厚く補助するべきであり、階層の格差をなくして行くことがいる。

 大きな物語としての日本人や日本の国は、成り立たなくなってしまっている。それぞれの小さな物語があるのにとどまる。日本人や日本の国にお金を使うべきだとはいっても、大きな物語が成り立たなくなってしまっているから、小さな物語でしかない。

 日本人や日本の国にお金をつかっても、それが悪かったりよくなかったりすることがあるだろうし、ほかの国の人やほかの国のためにお金をつかっても、それが(めぐりめぐって日本人や日本の国のためにも)よいことだったりよく働いたりすることは少なくないだろう。

 自のためにお金をつかっても、それは他のためにお金を使っているとも言えるし、他のためにお金をつかっても、それは自のためにお金を使っているとも言えるところがある。おなじ日本人だとはいっても、他人なのだから、自ではなくて他のために使っているとも言える。

 どういうことが自国である日本人や日本の国のためになるのかは、よくわからないところがある。他の国の人や他の国のためになることをやることによって、それがひいては日本人や日本の国のためになることは少なくはないものだろう。

 日本人や日本の国のためにならないことをやることが、ひいては日本人や日本の国のためになることがある。日本人や日本の国のためになることをやることで、日本の国がどんどんだめになって行くこともありそうだ。

 日本人に、日本の国のためになることが何なのかがわかるのかや、それができるのかは、確かだとはいえそうにない。日本人だからこそ、日本の国を悪くしてしまったり、だめにしてしまったりすることもおきかねない。日本人だからといって、日本の国を良くすることができる保証はない。

 参照文献 『日本人はなぜ存在するか』與那覇潤(よなはじゅん) 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら) 『なぜ日本の教育は変わらないのですか?』グレゴリー・クラーク