日本とロシアとの外交に見られる、日本の国の外交力のなさ―日本の外交のできていなさ

 ロシアと日本との外交は、失敗だった。テレビ番組に出演した学者はそう言っていた。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、日本の自由民主党安倍晋三元首相との外交の交渉は、誤ったものだった。まちがいだった。それを早くに認めればよかったが、それがなされなかった。

 テレビ番組で学者が言うように、日露の外交の交渉は失敗だったのだろうか。

 プーチン大統領と安倍元首相とは、たがいに仲がよい友だちどうしだとしていた。お互いに二〇回を超えるほど会って、食事を共にした。すごくたくさんおたがいに会っていて、会った量だけは多い。

 おたがいに会った量は多いものの、その見かえりとなる成果は出たとは言えそうにない。成果が出たよりも、むしろ日本が利益を失ったとすら言える。正の成果が出たのではなく、さし引きでゼロなのでもなくて、負の結果が出たのだ。

 国の力でいえば、日本よりもロシアのほうがずっと高いだろう。日本はアメリカに従属して依存しているから、外交の力がない(低い)。日本は、ロシアにたいしてかなり制約をもつ。他国であるロシアに、日本の言うことを聞かせるのはきわめてむずかしい。手ごわい相手なのがロシアだ。日本はロシアから足もとを見られる。

 安倍元首相がプーチン大統領と会うのは、部分の最適化(local optimal)になることだ。会うことをくり返して、会えば会うほどよりよい方向に向かうのかといえば、そうとは言えそうにない。会う量だけが多くなっても、全体の最適(global optimal)にいたることはできづらい。

 会わないよりも、会ったほうが少しはましだったのかといえば、そうとも言えそうにない。安倍元首相とプーチン大統領が何回も会ったのは、日本の国のためであるよりは、むしろ安倍元首相の個人の目的によるものだった。

 日本の国にとっての、全体の最適を目ざしたものではなかったので、部分の最適化のわなにはまってしまった。ただたんに、おたがいに会う量を多くして、会うことをくり返すことだけが自己目的化した。会えば会うほどよいといったことになってしまった。目的合理性がなくなり、会うことそのものに価値合理性がおきてしまった。会うことに価値があるといったことになった。目的と手段が転倒したのである。

 とにかく前に進めることがよいことなのだとして、会うことを重ねていった。会うことは、部分の最適化にはなるけど、全体の最適にいたるとはかぎらない。前に進んでいるつもりでも、じっさいにはたんに部分の最適化のわなにはまりこんでいるだけになる。

 全体の最適は、ちがうところにあるから、ずれた方向に進んでいってしまっている。北に進むべきものを、東に進んでしまっている。北ではなくて東に向かうことを、前に向かっているのだとかんちがいする。東に向かっているのがとちゅうでわかったら、それを北に向かうのに直せばよい。または東に向かうのをとちゅうで止めればよい。直したり止めたりしないでそのままでいれば、部分の最適化のわなにはまりこむ。

 日本がもつ外交の力がとても低いことがあらわになったのが、日本とロシアとの外交の交渉だろう。日本は国として、どういったことを目的として、そのためにどういったことを手段としてとるのかがつき詰められて探られていない。どういうことを大前提の価値観として日本の国は持つのかがはっきりとしていない。国としての大前提の価値観が持てていないのが日本の国だ。国としての中身が無い。

 自分がやったことは正しいことで、何らまちがってはいなかったのだと安倍元首相は言っている。プーチン大統領と何回も会ったことは、正しいことだったのだと言う。自分がやったことを、何でもかんでもぜんぶ自己正当化していて、合理化している。

 安倍元首相がこれまでにやったことや言ったことが、すべてまちがっていたとするのだと言いすぎだろう。すべてがまちがいだったとするのは言いすぎだが、すべてが正しかったのだとは基礎づけたりしたて上げたりはできづらい。人間にはまちがいがつきものであり、合理性に限界をもつ。

 自分がやったことを何でもかんでもぜんぶ正当化や合理化しようとするのは、プーチン大統領と似ている。自分のまちがいを認められない。まちがったところである、否定の契機を認められず、それを隠ぺいしたり消去したりしようとする。悪い政治家はそうしたことをするけど、悪い国は、国がもつ負の歴史を認めず、都合よく修正しようとする。歴史修正主義だ。

 政治家や、国が持っている、負のところである否定の契機をどんどん明るみに出して、そこを批判して行くようにしたい。すべてがまちがっていたとは言えないのにせよ、まちがっていたり悪かったりするところは、きちんと認めるようにすることがいる。負のところを正当化や合理化してしまうと、たんに自分は正しいとか、自国は正しいとするだけになり、政治家や国がもついろいろな穴をとり落としてしまう。

 参照文献 『十三歳からの日本外交 それって、関係あるの!?』孫崎享(まごさきうける) 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『時代の抵抗者たち』青木理(おさむ) 『歴史 / 修正主義 思考のフロンティア』高橋哲哉