ロシアとウクライナの戦争と、父権主義のよし悪し―他国の内政への干渉のよし悪し

 ロシアとウクライナのあいだで戦争がおきている。

 ロシアは、ウクライナのために、戦争をやっているのだ。ロシアではそう言われているのがあるという。ウクライナのためにロシアは軍事の行動をとっている。これはロシアによるウクライナへの父権主義(paternalism)だ。

 ロシアがウクライナに父権主義をとることはよいことなのだろうか。ロシアがやっていることはウクライナにとってよくはたらくことなのだろうか。

 ロシアがやっていることは、ウクライナによくはたらくことだとは言えそうにない。かりに、ロシアがやっていることがウクライナにとってよくはたらくのだとしても、ロシアがウクライナに干渉することは、よいことではないだろう。内政への干渉などに当たることになる。

 ウクライナはいちおうは(れっきとした)独立した主権をもつ国だ。もしもほかの国への内政の干渉が悪いことであるのなら、ロシアがやっていることは悪いことだ。ロシアがやっていることが何ら悪いことではないのであれば、ほかの国への内政の干渉は悪いことには当たらない。どんどんほかの国に内政の干渉をしてもよいことになる。

 視点の反転の可能性の試しをしてみると、父権主義をするのが認められるのだとすれば、ウクライナがロシアにたいしてそれをやることもよしとされなければならない。ロシアがウクライナにたいして父権主義をとるのはよいが、ウクライナがロシアにそれをやるのはだめなのであれば、ロシアが特権化されることになってしまう。国どうしはお互いに対等なのがあるから、ロシアだけを特権化するのはまずい。自由主義(liberalism)からはそう言える。

 どんなことがあっても絶対にほかの国の内政に干渉してはならないとは言えそうにない。いっさいほかの国の内政に少しも干渉してはならないとは言えず、ことによっては干渉したほうがよいことがある。少しだけ父権主義のようなことになる。ある国で、基本の人権(fundamental human rights)が侵害されていたり、国民に暴力がふるわれていたりするのであれば、人道の点からほかの国が干渉することはありだろう。

 国の自立や独立の点からすれば、できるだけほかの国が手を出さずに干渉しないほうがよい。よほどひどいことが行なわれているのではないかぎりは、その国のあり方が尊重されるべきだろう。こうしたほうがよいとかああしたほうがよいとかと、ほかの国がやたらに干渉するのはあまりよいことではない。

 父権主義はよくないことだから、国の自立や独立をできるだけ重んじて行く。親の字は、木の上に立って見るとされるように、放任して放ったらかしておく。そうすると、悪くするとよくない相対主義におちいりかねない。悪い意味での相対主義になってしまう。国の中で悪いことが行なわれていても、放ったらかされてしまう。

 ロシアはウクライナに干渉して、戦争を引きおこして、ウクライナの国の自立を否定している。ロシアがウクライナにやっていることは、むしろロシアにたいして行なわれないとならない。ウクライナの国の自立は否定されて、ロシアの国の自立がよしとされているのはおかしいことだろう。公平さの点で言えば、ウクライナの国の自立が否定されるのであれば、ロシアの国の自立もまた否定されるべきだ。

 どこの国に干渉するべきかでは、ウクライナであるよりも、ロシアにたいしてその必要性がある。ロシアはまちがったことをしているから、ほかの国が干渉したほうがよい。国の自立の点でいえば、よっぽどのことがないかぎりはその国のやり方が尊重されるべきではあるが、ロシアがやっていることはその限度を超えている。

 ロシアは、自国で自国の自立を否定していて、ほかの国から干渉されてもしかたがないことを自国がしてしまっている。自国が自国の自立をこわしていて、それをおびやかしている。もしも父権主義がいるのだとすれば、ロシアにたいしてこそそれが必要だと言えそうだ。

 参照文献 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『ぼくたちの倫理学教室』E・トゥーゲンハット A・M・ビクーニャ C・ロペス 鈴木崇夫(たかお)訳 『現代倫理学入門』加藤尚武 『善と悪 倫理学への招待』大庭健(おおばたけし) 『本当にわかる論理学』三浦俊彦