分配するためにも、成長を重んじないとならないのか―階層の問題

 まずしい人に分配をするためにも、成長を重んじなければならない。財界の大企業の経営者などは、そうしたことを言っている。分配よりも、まずは成長をしないとならないとしている。これは正しいことなのだろうか。

 たしかに、経済がうまく成長して、それでみんなが経済においてうるおえば、底辺の階層にまで分配が行なわれる見こみがある。うまいぐあいに成長がおきればよいが、それはたしかにおきるとは言えないし、また成長がおきても、底辺の階層にまでその恩恵が十分に行きわたるとはかぎらない。富のこぼれ落ち(trickle down)のたしかな保証はない。

 地球の資源にかぎりがあるので、成長によるあり方を絶対のものとするのではなくて、定常のあり方が探られることがいる。物理として、成長を目ざすことができなくなることが現実味をおびている。定常のあり方のほうが自然の環境を壊す度合いが低いからより倫理性が高いといえるのがある。これまでの成長のあり方は反省されなければならない。

 なにがまずいのかといえば、一つには、階層(class)の差がおきていることだ。階層の問題がおきているのである。上の階層と下の階層に分かれてしまい、不平等さがおきる。これを何とかしないとならない。不平等なのを平等化して行く。

 階層においては、たとえば、性のちがいにおいて、男性と女性がある。階層として見ると、男性の階層は恵まれていて、女性の階層は恵まれていない。優位と劣位の関係になっている。この階層の差を改めるには、成長と分配においては、成長を重んじるのであるよりも、承認して、分配して行く。女性の階層をしっかりと承認して、ついで分配をやって行く。それが大事なことだろう。それをなすうえでは、これまでの社会の価値観のまずさを変えて行き、改めて行くことがいる。

 資本主義であるかぎりは、格差が広がりつづけて行く。学者のトマ・ピケティ氏はそう言う。格差が広がりつづけてしまうのは、市場主義によるためだ。例外として、格差が縮まって、みんなが広く平等化したのは、二〇世紀の後半におきたことだ。二〇世紀の後半の、東西の冷戦があったときは、あくまでも例外として、みんなが広く豊かになったところがある。例外の時期だった。

 どのようなときに不平等が改まって平等化するのだろうか。歴史においては四つのことがあり、戦争、革命、国の崩壊、疫病だ。『暴力と不平等の人類史』ウォルター・シャイデルによる。これらの四つのことのどれかがおきないかぎりは、なかなか不平等は改まりづらい。そこがむずかしいところだ。

 資本主義の市場主義では、格差が広がりつづけてしまう。基本としてはそうなってしまうのがあり、例外の時期でないかぎりは格差は縮まらない。市場主義による市場の原理では、差別がおきることになる。差別の秩序だ。富める者と貧しい者といったように、合理による区別ではないような非合理の区別がおきてしまう。

 成長か分配かでは、成長は市場の原理によっていると言えて、分配は贈与の原理によっていると言える。そのように見なすことができるとして、分配つまり贈与の原理をもっと重んじて行くことがいる。分配つまり贈与の原理がしっかりとしていないと、市場の原理もまたうまくはたらかない。

 市場に任せていればうまくいろいろなものごとが行くのではなくて、市場の失敗がおきてしまう。さらに、市場の原理では差別がおきてしまうのがあるし、その差別の秩序が固定化されてしまう。格差が縮まることがなく、広がりつづけていってしまう。

 上の階層の天井と、下の階層の地面とのあいだが、広がりすぎてしまう。上の階層の天井が高すぎるのを、低くして行く。上の階層の天井が高すぎるのは、お金を必要より以上にもうけすぎていることをしめす。お金の亡者になっているのだ。学者の森永卓郎氏は、そのことを、お金持ちは病気だと言っている。ピケティ氏も、成長を重んじて行くべきだとするよりは、富める者からもっと税金をたくさんとれと言っている。

 富める者は、富の力を持っていることから、有利に立ち回ることができやすいので、優位に立ちつづけやすい。貧しい者は、ことわざでいう貧すれば鈍するといったことで、富める者よりは不利になりやすい。富める者がお金をもうけすぎているのがあるために、一つの国の中だけではなくて、国際的に富める者にしっかりと税金をかけることがいるのがある。国際的に富める者がたっぷりと税金を払い、富める者がもっている財が、貧しい者に回されれば、階層の差が縮まることがのぞめる。

 参照文献 『社会階層 豊かさの中の不平等』原純輔(じゅんすけ) 盛山(せいやま)和夫 『事例でみる 生活困窮者』一般社団法人社会的包摂サポートセンター編 『「定常経済」は可能だ! (岩波ブックレット)』ハーマン・デイリー 枝廣(えだひろ)淳子(聞き手) 『貧困と格差 ピケティとマルクスの対話』奥山忠信 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら)