総裁選と、信頼性―行動の予測可能性の高さと低さ

 総裁選が行なわれる。四人の候補者が、与党である自由民主党の中から名のりをあげている。おたがいに競い合っている。

 信頼性や行動の予測可能性の点から総裁選を見てみられるとするとどういったことが言えるだろうか。その点から見てみられるとすると大きくは二つの立ち場に分けて見られる。

 二つの立ち場があり、こういった行動の予測がなりたつ。一つはこれまでに自民党がなしてきた不祥事を隠しつづける。フタのおおい(cover)をしつづけて、フタを引っぺがさない。もう一つは不祥事をとり上げるようにして、フタを引っぺがすことを試みて行く。

 行動の予測ができやすいかどうかは、信頼できるかどうかに関わる。行動が予測できて信頼できるのであれば、価値を共有し合えるので仲間や味方になる。仲間や味方ではなくて敵となるのは、信頼できずに不信をいだくものである。たがいに価値を共有し合えない。

 自民党のなかで味方と敵に分かれているのがあり、味方に当たるのは自民党の中の不祥事を隠しつづけて行く。敵に当たるのは自民党の不祥事をとり上げて行き、隠すのではなくてフタのおおいをとり外して行く。

 総裁選の四名の候補者を見てみると、おおむね味方に当たる政治家が多い。それの意味することは、自民党の不祥事を隠しつづけようとするあり方だ。そのほうが自民党のなかで支持を得やすい。いまだに力を持ちつづけている前首相などからの支持を取りつけやすい。

 自民党がかかえている不祥事をとり上げられては困るのが前首相だから、そこにフタのおおいをしつづけて隠しつづけてもらいたい。風化することをもくろむ。そのもくろみに合うようなことをしてくれて、行動が予測できやすくて信頼できそうな候補者が前首相からよしとされているのだ。そうではないような、行動が予測できづらくて不信をいだく候補者はよしとはされていない。

 味方がよしとされて敵が排除されているところがあるのが自民党の中にはある。味方は信頼ができて、敵には不信をいだく。そのあり方を改めて、敵をむかえ入れることがないとならない。総裁選のなかではそれが求められるが、敵に当たるものを排除する力学が強くはたらいてしまっている。

 敵に当たるものは行動が予測できづらくて不信をいだくことになるから、総裁選では選ばれづらい。支持が伸びづらい。味方に当たるような、行動が予測できやすくて信頼できるような候補者が選ばれやすい。自民党の不祥事を隠しつづけてくれて、フタのおおいをしつづけてくれるような候補者だ。選ばれることになるのは、敵に当たるものではなくて味方に当たるような候補者だろう。

 どういった候補者が選ばれなければならないのかといえば、味方ではなくて敵に当たるような候補者だと見なしたい。行動が予測できづらくて不信を抱くことになり、自民党の不祥事をとり上げて行き、フタのおおいを引っぺがす。前首相からにらまれて敵と見なされるような候補者が選ばれたほうがよい。

 前首相にとっては行動が予測できづらくて不信を抱くような人が自民党の長として選ばれたほうが、自民党を正すことにつながるだろう。その反対に、前首相にとって行動が予測できて信頼できるような味方と見なされるような人が選ばれれば自民党のあり方が正されることは見こみづらい。前首相からすると行動が予測できなくて信頼できずに不信をいだくことになるようであれば、自民党の不祥事をまともにとり上げる意思を持つのでよい(すぐれた)人材だ。

 参照文献 『信頼学の教室』中谷内一也(なかやちかずや) 『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』長谷川眞理子 山岸俊男 『理性と権力 生産主義的理性批判の試み』今村仁司