自由民主主義の体制か、それとも共産主義かが選挙では問われるのか

 自由民主主義の体制か、それとも共産主義か。それが問われているのがこんどの選挙なのだと、与党である自由民主党の政治家はテレビ番組において言っていた。

 自民党の政治家がいうように、自由民主主義か共産主義かが間近に迫っている選挙では問われることになるのだろうか。そのさい、自民党に投票することは自由民主主義をよしとすることになるのだろうか。野党に投票することは共産主義をよしとすることになるのだろうか。

 もしも自由民主主義をよしとするのであれば、自民党に票を投じることは選択肢の中には入らない。そう言えるのがあるかもしれない。自民党は党の名前が自由民主となっているが、名前に反して、自由民主主義を壊しているの目だつ。党の名前に自由民主が入っていて、自由民主主義がうたわれているが、自民党自由民主主義をないがしろにして軽んじているのはいなめない。

 かりに自民党自由民主主義をよしとしているのであれば、日本の政治でもっとまっとうなことがいろいろに行なわれているはずだ。日本の政治がまっとうなあり方になっているはずであり、政治が腐敗せず、政治に不信がおきず、いろいろな不祥事がおきることが少ない。

 現実を見てみると、自民党だからといって、それが自由民主主義を含意するのではなくなっている。自民党だから自由民主主義によるのだとは言えず、それが自明なことであるとは言えなくなっている。政治が腐敗していて、政治への不信がおきていて、いろいろな不祥事がやたらにおきてきている。

 自由民主主義か共産主義かを対比させるよりも、民主主義か原理主義かを対比させることがなりたつ。それらを対比させてみると、自民党は民主主義によっているとはいえず、原理主義によっている。自民党の中は原理主義になっていて、民主主義ができていない。原理主義のあり方を改めるようにして、民主主義によるようにすることがいるのが自民党だ。

 ほかに対比できるものとしては、新自由主義(neoliberalism)か社会民主主義(social democracy)かとすることがなりたつ。日本共産党とはいっても、経済の市場主義を全否定するようなごりごりの共産主義をなそうとしているのではないだろうから、それよりもおだやかなものである社会民主主義として見なすことがなりたつ。これは共産党社会民主党などのような左派のあり方だ。

 自民党は右派に当たり、新自由主義をよしとしているのがある。新自由主義によるあり方が日本では強く、そうなっているわけとしては、日本はイギリスやアメリカのあり方を手本としていることによる。英米をよしとしているのが日本では強いから、新自由主義が強くて、社会民主主義が弱い。

 どちらかだけが正しいとは言えないのはあるにせよ、新自由主義がとられつづけてきていることによって、その害が大きくなっているのが日本のいまのありようだといえる。害を小さくして行くには、社会民主主義を強めるようにして、社会を重んじて行く。

 経済の市場主義はよいところがあるいっぽうで、悪魔のひき臼といわれるくらいにかこくさがあり、不平等や差別を生む。そのかこくさを和らげて、個人の私が生きて行きやすいようにして行く。経済の市場主義をあたかも宗教のように信じるのではなく、社会民主主義によって社会をしっかりととり立てて行く。社会を重んじるようにして行くことで、社会が弱まりつづけているのに歯止めをかけて、社会が壊れて行っているのを防ぐことがいる。社会の中の分断や階層(class)の格差を改めて行く。新自由主義だと分断や格差を放ったらかしにしてしまい、それらを改善することがのぞみづらい。

 小さい政府によるのが新自由主義で、大きい政府によるのが社会民主主義なのがあり、それらのどちらがのぞましいのかがある。これはどちらか一方に割り切ることができるものではなくて、どういった割合でやって行くのかによる。純粋に一〇割を市場によるようにして、純粋な資本主義にするのだと、そもそも資本主義はうまく行かず、とんでもない格差がおきてしまう。

 全体が一〇割ある中で、どちらを何割でやって行くのかである。一つの手としては、新自由主義によるのを減らして、社会民主主義による割合をもっと高めてもよいのがあるだろう。いずれにせよ、小さい政府か大きい政府かであるよりは、ばかな政府か賢い政府かがかんじんなことであり、それは言い換えればばかな国民か賢い国民かと言ってもよいものだ。国民が賢くなるのをうながさず、国民がばかでありつづけたほうが、国にとってはあつかいやすいから、国は国民を賢くしようとはしていない。これはいまにはじまったことではなくて、戦前から引きつづいているものだ。

 きびしくみれば、たとえ自民党に投票したからといって、賢い政府になることがのぞめるとはいえそうにない。政府がばかなのであれば、それは国民にもまたまずさがあると言える。どちらかといえば、政権をになう与党よりも、野党や議会の内や外の反対勢力(opposition)のほうがより賢いことが少なくない。野党や反対勢力が(与党に比べればまだしも)少しは賢いことが、かろうじて日本の国を首の皮一枚で持ちこたえさせていると言えるかもしれない。

 参照文献 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫原理主義と民主主義』根岸毅(たけし) 『社会(The Social) 思考のフロンティア』市野川容孝(いちのかわやすたか) 『「野党」論 何のためにあるのか』吉田徹 『日本の危機 私たちは何をしなければならないのか』正村公宏(まさむらきみひろ)