総裁選と、政党間競争の欠如―一強によるまずさ

 総裁選が行なわれている。与党である自由民主党の中で四名の候補者となる政治家がおたがいに競い合っている。

 自民党の政党の中では、党の長をめぐって四名の候補者となる政治家が競い合っているが、政党の外に目を向けてみるとどういったことが言えるだろうか。

 政党の中はともかくとして、その外に目を向けてみると、政党間競争(party competition)が欠けているのが見てとれる。自民党が一強となってしまっていて、その一強と結びついた形で人事権を握られている官僚や特別利益団体とが結びつき合う。大げさに言えば国民はかやの外に置かれることになる。より正確にいえば、一部の国民もしくは多数派の国民は包摂されるが、そのほかの国民が包摂されることがない。

 自由民主主義(liberal democracy)の点から見てみられるとすると、政党どうしのあいだでおたがいに競争があることがいる。競争性と包摂性があることがいるが、自民党の中で総裁選をやったところで、政党どうしに競争がおきるのではない。自民党の総裁選に注目が集まることで一強であることが強まることはあっても、それが弱まることは見こみづらい。一強とそれに群がる特別利益団体などを利することになっている。

 少なからぬ人が指摘していることではあるが、気をつけなければならないのはこういったことだろう。たとえ自民党の中で総裁選が行なわれたところで、そこに自由民主主義における競争性や包摂性があるとは言えないのがある。競争性では、政党の中ではなくてその外で政党どうしがおたがいに競争し合えるようでないとならない。一強ではないことがいる。

 包摂性の点では、自民党の総裁選に参加できるのは自民党の関係者にかぎられるから、ほかの多くの国民は置いてけぼりだ。多くの国民はただながめることができるだけにとどまる。これでは包摂性があるとは言えそうにない。政党(political party)はあくまでも日本の国の部分(part)を代表しているのにとどまるから、あたかもそれが国の全体を代表しているかのようにとらえられるのではないようにしたい。

 一強であることによって、ほかの野党が弱まってしまう。与党である自民党だけが強ければよくて、自民党だけが与党でありつづけていればよいといったことは言えそうにない。与党と野党とのあいだには相互作用がはたらくので、野党が弱まってだめになれば与党もまただめになって行く。負の循環(spiral)がおきることになる。それなりの力をもったきちんとした野党や反対勢力が議会の内や外にいてはじめて、与党もまた少しはまともになりやすいものだろう。

 いまは脱産業社会になっているから、政治においてだれが選ばれたとしてもそれなりにうまく行くといったようにはなりづらいと言えそうだ。どの政党が選ばれたとしてもそれなりに政治がうまく行くとは行きづらい。政治家や政党を選ぶうえで、選ぶことに失敗しつづけてきているのが日本のありさまだと見なすことが一つにはできる。

 日本が政治家や政党を選ぶことに失敗していると見なせるのは、これほど自民党が選ばれつづけていて力を持ちつづけているのはそこまで正しいことだとはいえないのがあるからだ。一強である自民党と、人事権を握られている官僚や特別利益団体との結びつきが強まっているのがある。その結びつきを何とかして少しでもつき崩したいものだ。

 政治家を誰にするのかにせよ、政党をどこにするのかにせよ、脱産業社会のなかでは、それらを選ぶことに成功しづらい。成功しづらくて選び損なっていて、失敗がおきているなれのはてがいまの日本の政治のありさまだ。きびしくいえばそう言えるのがあるかもしれない。

 政党間競争が欠けてしまっていて、一強になっていて、競争性と包摂性が低くなっているのがあるから、そこを改めることがないと、いくら自民党の総裁選が盛り上がったところで本質として日本の政治がよくなることはあまりのぞみづらい。

 与党である自民党だけが強ければよいといったことではなくて、一強のあり方を改めて行く。自由民主主義によって競争性と包摂性を高めて行く。それらができるかどうかが自民党の総裁選ではもっともとり上げられなければならないことの一つだろう。

 政党の中で、似たりよったりのあり方の政治家どうしが競い合うよりも、政党の外で政党間競争がはたらくようにして、さまざまなことがらについてをとことんまで話し合う。さまざまなことがらについて対立の点をつくるようにして、とことんまで深く掘り下げて行く。

 超高齢や少子化がすすんでいっていて、世界のなかで課題先進国なのが日本だ。日本の国が危機におちいっているのだとすれば、政党の枠をこえてさまざまなことがらについてをとことんまでつきつめるくらいにしてやって行かないと危機を脱せられそうにない。

 参照文献 『若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!? 三五歳くらいまでの政治リテラシー養成講座』森川友義(とものり) 『「野党」論 何のためにあるのか』吉田徹 『個人を幸福にしない日本の組織』太田肇(はじめ) 『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』佐藤優 井戸まさえ 『心理学って役に立つんですか?』伊藤進 『政治家を疑え』高瀬淳一 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫