価値観の逆転:イスラエルとアメリカの正当性(rightness)に疑問を投げかける

 イスラエルを批判する。学生による示威(じい)の運動が、アメリカの大学でおきているという。

 学生による示威(demo)の運動は、アメリカの国の権力から押さえこまれている。学生たちとアメリカの国の権力とがぶつかり合う。

 すべての人たちが学生による示威の運動をよしとしているのではなくて、それにたいする疑問の見かたもある。パレスチナイスラム主義の集団の肩をもつことになり、それへの批判の声がある。

 あたかも戦後の学園の闘争(紛争)をほうふつとさせるところがあるけど、いまおきている学生による示威の運動をどのようにとらえることができるだろうか。

 イスラエルがやっていることに、何の声もあげない。何も批判をしない。自発の服従である。イスラエルは正義である。アメリカは正義である。みんながイスラエルアメリカを正義だとしていれば、十分に自発の服従を調達できていることを示す。自発の服従の契機がある。

 みんなが自発に服従しているわけではない。学生の中には、イスラエルアメリカを批判する人たちがおきていて、示威の運動をやっている。自発の服従の調達が不十分であることをしめす。そこまで十分には自発の服従が調達できていないのである。

 正当性(rightness)を問いかけてみる。イスラエルアメリカがやっていることにたいして、正当性を問いかけてみることがいる。正当性を問いかけてみると、イスラエルアメリカがやっていることに疑問符がつく。正しくないところがある。パレスチナの人たちに暴力をふるっているのがイスラエルだ。

 学生たちが声をあげるのを、上から抑えこむ。国はそれをやることができる。国の公の装置をもっているからだ。いざとなれば、国の公の装置を使うことができるのである。警察や軍隊だ。

 あくまでもさいごのほうに取っておく手だてなのが、国の公の装置を使うことだ。はじめの方では使わない。自発の服従をうながす。自発に服従してくれればそれにこしたことはないのである。わざわざ国の公の装置をもち出さずにすむ。

 正しいのはイスラエルアメリカだ。悪いのはパレスチナイスラム主義の集団である。正しいものと、悪いものを線引きする。正しいものなのがイスラエルアメリカだとする。国はその知識を人々に広めて行く。知と権力だ。

 国が知識を広めて行くさいに用いるのが、国の思想の傾向(ideology)の装置だ。報道などである。学校もそれに当たる。国の思想の傾向の装置の一つなのが学校であり、学校で学生が国を批判するのはのぞましくない。国を批判する声をあげる場としてあるのではないのが学校だ。国におとなしく従ってもらうためにあるのが学校なのである。

 正当性がそこまでないのが、イスラエルアメリカがやっていることだろう。それとともに、パレスチナイスラム主義の集団がやっていることもまた、そこまで正当性はない。

 良いものは良くて、悪いものは悪いのだとはできないところがある。良いものは悪くて、悪いものは良いとなってしまう。価値がひっくり返ってしまうところがあり、良いものだとされているイスラエルアメリカは悪い。悪いものだとされているパレスチナイスラム主義の集団は、悪そのものだとは言い切れないところがなくはない。少なくとも、パレスチナの人たちは悪くない(まったく罪はない)。

 価値に当たるのが良さや悪さだ。事実ではない。価値と事実の二つをふ分けすることがなりたつ。価値は人それぞれのところがあるから自由さをもつ。上から強制することができづらい。権力で価値を押しつけないかぎりは、自由による。価値の多神教である。

 アメリカの学生たちが示威の運動をやっていることからうかがえるのは、価値が必ずしも固定化されていないことだろう。良いものは良いだとか、悪いものは悪いとはできづらくて、良いものは悪いとか、悪いものは良いとなっているところがある。イスラエルアメリカは良いものだとされているけど、それらについて正当性を問いかけることがいる。

 参照文献 『日本の難点』宮台真司(みやだいしんじ) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『境界線の政治学杉田敦(あつし) 『構築主義とは何か』上野千鶴子編 『暴力 思考のフロンティア』上野成利(なりとし) 『ナショナリズム 思考のフロンティア』姜尚中(かんさんじゅん) 『公私 一語の辞典』溝口雄三 『警察はなぜあるのか 行政機関と私たち』原野翹(あきら) 『テロリズムと日常性 「九・一一」と「世なおし」六十八年』加藤周一 凡人会 『原理主義と民主主義』根岸毅(たけし) 『入門 パブリック・リレーションズ』井之上喬(たかし) 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら) 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『法哲学入門』長尾龍一現代思想の断層 「神なき時代」の模索』徳永恂(まこと) 『本当にわかる論理学』三浦俊彦