処理水と、それへの不信や猜疑(さいぎ)―(たとえ科学によっているのだとしても)なぜ処理水は信用されづらいのか

 原発の処理水を、海に流す。海に流しているのを、中止せよ。そういわれているのがある。

 海洋に放出されているのが処理水だが、それの中止のうったえは、聞き入れられるのだろうか。

 どういう訴えをすることができるのかがある。主となる訴えとしては、原子力発電所から出た処理水を海に流しているのを中止するうったえだ。

 ほかの訴えとしては、こういったものがある。処理水の海洋への放出の中止を求めるのは具体論だが、抽象論もまたなりたつ。

 抽象論のうったえとしては、社会関係資本(social capital)をとり上げることができる。日本は社会関係資本がすごくうすい。処理水のことでは、それが災いしている。災いを何とかするために、社会関係資本の厚みを厚くすることをうったえて行く。そのやり方がなりたつ。

 ふつうは資本といえば、目に見えるものだ。具体の物だ。お金などがある。そうではなくて、目に見えない資本なのが社会関係資本だ。その集団の中で、人々の関係性をうまく行かせるようにはたらくものである。集団の中の信頼性や、規範や、網の目(network)のつながりや、助け合いなどだ。義理と人情で、(冷たいのではなく)温かい義理である。

 国の経済がどんどん進んで行く。かつての日本は貧しかったけど、そこからどんどん経済が進んでいった。いまでは日本は世界の経済の大国の一つだ。

 いまの日本は落ち目だとされているのがあるけど、それはそれとして、国の経済の進みぐあいを見てみたい。国の経済がまだ進んでいないときは、目に見える物の資本が重みをもつ。社会の基盤(infrastructure)を作って行く。土木と建築による。

 日本は土建業が中心の土建の国だった。省庁では、建設省(いまは国土交通省)がすごい力を持っていた。

 まずしいありようから、国の経済がどんどん進んで行くと、目に見えない資本(社会関係資本など)が重みを持つようになって行く。国における資本の重みが、しだいに、関係などのそれそのものは目には見えないものへと移って行く。社会関係資本論からすると、そうなるという。

 社会関係資本の厚みを厚くせよ。厚くして行くことをせよ。そのうったえができるのがあり、自然の環境を守るために益にはたらく。

 自然の環境を守って行く。こわさないようにして行く。そのためには、日本がもつ社会関係資本の厚みを厚くして行くことがいる。

 国が主になっていると、国の経済はどんどん進んで行く。まずしさから脱して、豊かになりやすい。あるていど国が豊かになると、国が主のあり方のままだと社会関係資本は厚くなりづらい。その厚みを厚くして行くためには、国を脱中心化(脱全体化)することがいる。国を相対化するようにして、国ではないそれ以外のほかの色々な主体を活躍させて行く。国ではないそれ以外の色々な主体に、重みを分散化して行く。

 国を相対化するうえでは、自由主義(liberalism)がだいじだ。国と、そのほかの(国の内や外の)いろいろな大小(中小)の集団とのあいだで、抑制と均衡(よくせいときんこう、checks and balances)をかけて行く。

 国が力をもって、専制主義や国家主義(nationalism)になるのはまずいから、それらにおちいるのを防いで行く。中立な立ち場から判断する思想なのが自由主義だ。

 統治(governance)がおかしくなっているのがいまの日本だろう。統治が悪くなっているのがあり、社会関係資本の厚みがかなりうすい。厚みがうすいから、処理水の海洋への放出が、人々から十分に支持されない。不支持の人が少なからずおきている。

 科学によりさえすれば、人々がまちがいなく支持してくれるとはかぎらない。日本がもつ社会関係資本の厚みが厚くないと、たとえ科学によっていても人々からの支持がおきづらい。少なからぬ不支持がおきてしまう。日本の国がやることについて、不信や猜疑(さいぎ)がおきる。

 日本の国がやることに、不信やさいぎがおきてしまう。日本ではいまそれが起きているのがあり、それを何とかして行く。そのためには、日本の社会関係資本の厚みを厚くして行く。それがいる。

 いっけんすると遠まわりのようではあるけど、具体論ではなくて抽象論によるようにして行く。具体論なのが、処理水の海洋への放出を中止させることだ。

 現実論として見てみると、具体論である処理水の海洋への放出の中止は、なかなかなされづらい。処理水の海洋への放出にこだわっているのが日本の国(政権)だからだ。

 正義論からすると、処理水の海洋への放出をやめさせることの正義があるが、それだけではなくて、社会関係資本の厚みを厚くして行く正義もまたある。それがうすいままだと、日本の国が不正なことをやりまくり、自然の環境をこわしまくる。日本の統治が悪いままになってしまう。抽象論の目に見えないところの正義もまた、見逃さないようにして行きたい。

 参照文献 『環境 思考のフロンティア』諸富徹(もろとみとおる) 『信頼学の教室』中谷内一也(なかやちかずや) 『徹底図解 社会心理学 歴史に残る心理学実験から現代の学際的研究まで』山岸俊男監修 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『こうして組織は腐敗する 日本一やさしいガバナンス入門書』中島隆信 『義理 一語の辞典』源了圓(みなもとりょうえん) 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし)