性の被害と、会社の危機(crisis)―集団における危機の管理(crisis management)の必要性

 日本の国の中だけではない。国の外からも批判されているのが、日本の芸能界で、すぐれた男性アイドルをたくさん生み出している芸能の会社だ。

 その会社の元代表が、会社の男性アイドルたちに、性の加害をなした。それがうたがわれているのがあり、当事者(被害者)たちがたくさん声をあげている。

 会社の元代表が性の加害をしたとされることで、いまの会社の代表が辞任することになった。そのことをどのように見なせるだろうか。

 どういったものが会社に欠けていたのかといえば、危機の管理(crisis management)や社会の関係(public relations)だ。会社が、自分たちで駆動することがなされなかった。日本の国の外からも批判されたことで、(自分たちからではなくて)他から動かされた形だろう。

 具体論ではなくて抽象論からすると、たとえばある集団があったとして、その集団の長が、集団の中の人たちに、性の加害をなす。それがなされたのだとすれば、その長はきびしく批判されることになる。甘く許されるのだとは見なしづらい。

 学校なんかだったら、校長が、生徒に性の加害をなす。そうした学校があったとしたら、そこの校長はそうとうにきびしく批判されるのにちがいない。そこの校長が甘く許されているのだとしたら、その学校のあり方はおかしい。

 どこかの会社で、会社の社長が、社員に性の加害をなす。それが行なわれていたら、その社長はただではすみそうにない。多くの人々にそのことが広く知られたとしたら、社長が甘く許されることにはならないものだろう。

 そこの集団の中が、特殊なあり方になってしまう。固有な性質になる。それだと、その集団の中で基本の人権(fundamental human rights)が守られなくなってしまう。

 つねに当てはまるあり方なのが、普遍だ。集団の中がそうであれば、社会の状態(civil state)がなりたつ。日本の芸能の会社では、集団の中が特殊なあり方になっていて、自然の状態(natural state)になっていた。

 集団の中が自然の状態になっていると、権威がない状態に置かれる。戦争の状態になり、混沌(chaos)がおきてしまう。ばらばらの状態なのが混沌だ。個人どうしがぶつかり合い、強い者が弱い者をおそうことなどがおきてしまう。弱者が守られないありようだ。

 可傷性(かしょうせい、vulnerability)をもっている人は、その集団の中で排除されやすい。それで性の被害などを受けてしまう。ぜい弱性をもつ個人は排除されやすいのがあり、それによって個人が不幸におちいる。

 きちんと危機の管理を行なうためには、危機(crisis)を認識しなければならない。危機の認識は、幸福な人にはできづらい。不幸な人は、危機を認識しやすいのがあり、それによって声をあげることになる。

 ものごとをきちんと認識して行く。集団の統治(governance)がうまく行っているかどうかを見て行く。そのためには、集団についての負の信号(signal)をきちんととらえることがいる。色々なところから、色々な負の信号、つまり兆候(ちょうこう、sign)が発せられる。危機の管理ではそれを見逃さないようにするのがいる。性の被害者が色々に声をあげていたけど、それがまともに受けとめられなかった。会社が、負の信号をきちんと受けとめずに、十分に耳をかたむけなかった。

 認識をする人なのが、不幸におちいっている人だ。性の被害を受けた人は、認識者でもあるのだから、会社はその声をきちんと受けとめるべきだった。認識への努力がなされず、そこに怠慢があったのが会社にはあり、会社の危機を認識できなかった。認識者(被害者)を大切にせずに、認識への努力をおこたったのがあったために、会社の危機が大きくなってしまったのがありそうだ。

 いまの時代は、世界主義(globalization)になっている。世界がつながり合っているのがあり、国の境界の線をかるがると超えて情報が交通して行く。危機を避けられなくなっているのがあるから、危機の管理をやることがいる。

 会社は、もっと危機の管理や社会の関係にうんと力を入れていれば、会社の悪いあり方を大きく改革することができたかもしれない。民間の自動車会社のトヨタ自動車でいわれる、よい改善ができた見こみがあるが、そのためには、認識への努力をおこたらないようにすることがいる。認識者や批判者、つまり不幸な人を大切にして行かないとならない。

 参照文献 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『グローバリゼーションとは何か 液状化する世界を読み解く』伊豫谷登士翁(いよたにとしお) 『危機を避けられない時代のクライシス・マネジメント』アイアン・ミトロフ 上野正安、大貫功雄(おおぬきいさお)訳 『トヨタ式「スピード問題解決」』若松義人 『入門 パブリック・リレーションズ』井之上喬(たかし) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『個人を幸福にしない日本の組織』太田肇(はじめ) 『一三歳からの法学部入門』荘司雅彦 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『東大人気教授が教える 思考体力を鍛える』西成活裕(にしなりかつひろ) 『リベラルアーツの学び 理系的思考のすすめ』芳沢(よしざわ)光雄 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『こうして組織は腐敗する 日本一やさしいガバナンス入門書』中島隆信 『失敗の研究 巨大組織が崩れるとき』金田信一郎