マイナンバーカードと、日本の完ぺき主義―(はじめのうちは)完ぺきでなくても良いのか

 日本はノーミス主義だ。完ぺき主義だ。マイナンバーカードについて、テレビ番組で芸能人はそう言っていた。

 いろいろな不具合がおきているのがマイナンバーカードだけど、それはしかたがないことなのだろうか。完ぺき主義でやりすぎているのだろうか。

 たしかに、日本は完ぺき主義だというのは、一理あるかもしれない。芸能人の言っていることには一理あることはたしかだ。

 人間がやることなのだから、まちがいがあってもしかたがない。まちがいが避けられない。それがあるのだとして、マイナンバーカードについては、一〇割主義である完ぺき主義ではなくて、ほどほど主義である六割主義でやるのでよいのだろうか。六割主義だと、四割はまちがいがおきてしまう。

 一〇割の完ぺき主義だったら、いっさいまちがいがない。不具合がまったくない。そうではなくて、六割のほどほど主義だったら、型(pattern)のようになってしまう。おおむね大丈夫だけど、まちがいがおきることが中にはある。うまく機能しないことが中にはあるけど、ゆるしてね、といったふうだ。機能するかしないかがもうひとつ不たしかなのである。

 失敗がおきることがあるのであれば、負の事例があることになる。負の事例がいっさいないのであれば、それは一〇割の完ぺき主義だ。そうではなくて、負の事例がいくつかあるのであれば、それは完ぺきではないことをしめす。完ぺきではなくても、負の事例が少なかったり、そう大したことではなかったりするのであれば、そこまで大ごとではないかもしれない。

 日本の政治は完ぺき主義なのがあって、無びゅう主義である。可びゅう主義によるのではない。役人は無びゅう主義によっているのがあって、まちがいをおかしてもそれを認めない。役人はいっさいまちがうことがないのだといったような非人間のあり方になっている。

 政治家も非人間のあり方になっていて、政策のまちがいを認めない。さいきんの日本の政治ではそうしたあり方が強まっていて、政治家が自己正当化や自己合理化をしすぎだ。政策にまちがいがあったとしても、すなおにまちがいを認めないのである。

 六割のほどほど主義で、はじめは四割のまちがいがおきてしまう。それがだんだん改良されていって、三割、二割、一割とまちがいが減って行く。ついにはまちがいが〇になる。〇にかぎりなく近づく。これは、西洋の哲学の肯定の弁証法(dialectic)の発想だ。

 カードとはちがうけど、原子力発電なんかでも、日本では原発の事故がおきた。それは負の事例の一つであり、それをもってして原発がまちがっているとはできない。科学の技術がどんどん進んでいって、原発の安全性がより高まって行く。よりすぐれた発電のし方ができるようになって行く。

 はじめのうちはまちがいがおきるし、とちゅうでまちがいが起きてしまうことがある。過程(process)ではそうしたことがあるけど、先に進んで行くにしたがってどんどん進歩して行く。こうした発想が肯定の弁証法であり、上昇の史観だ。

 原発でいえば、そもそもそれを作ったことがまちがいだ。原発で発電することそのものがまちがいであり、悪いことだ。これは反原発脱原発のあり方だ。否定の弁証法である。日本の国土を死にいたらしめるような原発の事故が、いつおきてもおかしくはない。日本は地震国だ。どんどん悪くなって行くといったような下降の史観のようなものである。

 マイナンバーカードでは、日本の完ぺき主義が悪いのであるよりも、肯定の弁証法でやりすぎているおそれがある。はじめや、とちゅうには、まちがいがおきるけど、だんだん進歩して行くのだとするのが肯定の弁証法だが、その保証は必ずしもない。

 日本の政治は、肯定の弁証法でものごとをやりすぎだ。日本の完ぺき主義が悪いのであるよりも、肯定の弁証法の悪さが目だつ。あと、政治家や役人の無びゅう主義の悪さも目につく。

 さいしょのうちはちょっとだめなところがあるけど、どんどん進歩していって、どんどん良くなって行く。マイナンバーカードがそういったものであるのなら、そこには明るさがある。

 肯定の弁証法だと、明るいとらえ方になるけど、いまの日本は、いろいろ暗いところがある。主観ではあるけど、そういったふうに感じられるのがあり、マイナンバーカードについて、明るさだけではなくて、暗いところも十分に見たほうがよい。あと、原発についても、明るいものであるよりも、暗いところが大きくて、すごい危なさをもつものだろう。

 明るさによってしまうと、原発の安全の神話になるけど、その神話が原発の事故によってくずれたのがあり、暗さがおきている。暗さがあるのが、うわべの明るさによっておおい隠されてしまっている。本当に明るさ(未来への希望)がのぞめるのならよいけど、暗さを隠すためのごまかしなのであれば良いものではない。表面の明るさのかげに、すごい退廃(decadence)があるのがいまの日本であり、その退廃のところを見おとさずに見て行きたい。

 参照文献 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『反証主義』小河原(こがわら)誠