憲法の改正と、パラダイムの動揺と移行―護憲の改善期と、改憲の革命期

 憲法の改正の議論をして行く。与党である自由民主党や野党の一部はそれをやろうとしている。野党である日本維新の会や国民民主党は、憲法の改正について自民党と足並みをそろえている。このことをどのように見なすことができるだろうか。

 学者のトマス・クーン氏が言ったパラダイム(paradigm)の理論によって、憲法の改正を見てみたい。

 クーン氏のパラダイムの理論では、改善期と革命期の二つがあるとされる。憲法の改正では、憲法を守りつづけるのは改善期で、改正を目ざすのは革命期だと言える。

 与党である自民党や野党の一部が憲法の改正をやろうとしているのがあるので、いまの日本は憲法において改善期から革命期に入った。そう言うこともできないではない。じっさいに自民党や野党の一部によって憲法が改正されれば、革命期に入ったことを裏づけることになる。

 たとえ憲法が改正されたとしても、それを革命期ではなくて改善期の中のことだと見なすこともできそうではあるが、それとはちがう見かたをしてみたい。改善期であるよりも革命期として、憲法が改正されようとしていると見なしたい。そのわけとしては、自民党はいまの憲法を否定しているのがあり、いまの憲法をよしとしたうえでそれを少しずつ改善しようとはしていないと言えるからだ。なので、憲法を守ろうとするのは改善期と言えるが、改正を目ざすのは革命期だととらえられる。

 改善期と革命期とでは、どちらのほうがよりよいのだろうか。憲法の改正を目ざしている自民党などにとっては、改善期は悪くて、革命期はよいとしている。改善期のままで憲法を守りつづけるのはよいことではない。たしかに、改善期で憲法を守りつづけるのにはやや無理があると言えないではない。

 改善期のままで、憲法を守りつづけるのは、それが絶対に正しいことだと基礎づけたりしたて上げたりはできづらい。改善期のあり方にはやや無理があるのは否定しがたい。そのいっぽうで、革命期に入って、憲法を改正すればよくなるのかと言えばそうとも言い切れそうにない。革命期であればそれが正しいのだとして、正しさを基礎づけたりしたて上げたりすることはできそうにない。

 革命期に入り、憲法を改正すれば、かえって日本にとって悪くはたらくことはないではない。憲法を改正することでかえって憲法がそれまでよりも悪くなってしまう。改善期のままでいたほうがむしろよかった。事前と事後に分けて見てみれば、革命期に入った事後において、よい方向に向かうことができたと完全に納得することができる保証はない。事後になってから後悔することがある。事後になってから生じるのが後悔だ。

 一つの知恵としては、改善期のままにとどまりつづけて、憲法を守りつづけて行く。そのほうが無難ではある。自民党がやろうとしているように、革命期に入り、憲法の改正をやろうとするのは、そこに少なからぬ危なさがある。それまでよりもよりよくなるのではなくて改悪されてしまうおそれがあるし、みんなが納得するかたちの結果が出るとはかぎらず、負のしこりが残ることがある。みんなが得や利益を得られるような結果が出る保証はない。

 憲法を守ることのよさとしては、はげしい革命期に入ることに歯止めをかけられる。はげしい革命期に入り、国の全体がまちがった方向に向かって進んでいってしまうのを防ぐ。そのときどきの政治の権力者が自分たちに都合がよいようなことをやるのを防ぐために、政治の権力者をしばる。政治の権力者がかってに革命期に入ろうとするのを止める。立憲主義は、できるだけ広い意味での改善期にとどまりつづけさせようとするものだとも言えそうだ。

 正義でいえば、改善期は量つまり保守性により、革命期は質つまり革新性による。量の場所性(topos)と質の場所性がせめぎ合う。量の場所性を、質の場所性がしのごうとしているのがいまの日本の憲法のあり方だと言える。量の場所性を、質の場所性がとって代わろうとしている。量と質の、どちらの場所性にも一理あり、どちらかだけが完ぺきに正しいとは言いがたい。かりに量の場所性が古い井戸であるとすると、古い井戸にも捨てがたさがあり、そのよさがあると言える。

 革命期に入ることで、日本の国の利益が損なわれて、国が悪くなることがないではない。革命期に入ることがわざわいする。どう出るかがわからないところがあるから、そのこともいちおうはくみ入れておいたほうがよい。どのみちすでに(不可避的に)革命期に入ってしまっているとも言えるのはあるが、そこからさらに本格的に革命期に入るのだとより危なくなるおそれがあると言えるのはありそうだ。

 参照文献 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『絶対に知っておくべき日本と日本人の一〇大問題』星浩(ほしひろし) 『発想のための論理思考術』野内良三(のうちりょうぞう)