アフガニスタンのタリバンは悪そのものなのか―完全に非合理なのか、それとも多少の合理性はのぞめるのか

 中東のアフガニスタンでは、イスラム教の過激派であるタリバンが政治の権力をにぎったという。タリバンが国を支配することになった。アメリカの息がかかっていたそれまでのアフガニスタンの政権は崩れることになり、力を失った。このことについてをどのように見なすことができるだろうか。

 国のあり方としては三つのものがあり、内乱と独裁の支配と立憲主義があるとされる。このうちでアフガニスタンタリバンが力をもつのは、独裁の支配に当たるものだと言えそうだ。

 タリバンが独裁の支配をするのは、国のなかで内乱がおきているのよりはましである。内乱がおきているのは部分勢力(behemoth)どうしが争い合うのをあらわす。自然状態(natural state)または戦争状態だ。内乱をしずめられれば国(leviathan)の秩序がなりたつ。国の秩序がなりたてば内乱がおきているよりはましだが、立憲主義にまではいたっていない。のぞましいとはいえないが、最悪だとは言えないものだ。

 どのようにタリバンについてを表象する(represent)べきなのかがありそうだ。キリスト教が主となっている西洋からすると、イスラム教のタリバンは他者に当たるから、タリバンつまり悪みたいな見かたがとられる。悪そのものとしてタリバンを表象することがある。それはことによってはやりすぎであるかもしれない。他者の表象のしかたとして適していない。

 やっかいなのは、いちばんのぞましい国のあり方なのが立憲主義ではあるが、それは普遍のものであり、普遍には押しつけになるきつさがある点だ。押しつけになると反発を食うことがおきがちだ。そこがむずかしい点である。普遍とはいっても特殊から生まれたものだし、あくまでも世俗における正しさにとどまる限界をもつ。

 タリバンについてを表象するさいに、悪そのものだといったことで見ると、オリエンタリズム(orientalism)や西洋中心主義のようになりかねない。西洋の国にも悪いところはいろいろにあるし、たとえばアメリカをとり上げてみてもこれまでに悪いことをいろいろにやってきている。アメリカつまり善とか正義とは言えないのはたしかだ。

 あまり単純化して悪と善や正義といった図式で見るのは避けるようにしたい。いちばんのぞましい国のあり方である立憲主義がほんとうにきちんとできている国はあまりないのが現実だ。西洋の国では、アメリカは国のなかで十分に立憲主義ができているとは言えない。東洋では日本は立憲主義が壊されていて独裁の支配のようになっている。

 くわしいことはわからないのはあるが、よほど狂っているのではないとすれば、国は最低限の合理性をもっているのがある。最低限の合理性とは、やみくもに戦争をしかけるといったようなことは行なわれないことをさす。

 それほど強い効力はないものの、世界には文化の力(soft power)がはたらいているのがあるから、軍事の力だけがゆいいつものを言うといったことになっているとは言えそうにない。文化の力がうまく歯止めになってくれれば、やたらに戦争をしかけるといったことは防げるものだろう。

 タリバンイスラム教を強く信じていることから、民主主義よりも原理主義(fundamentalism)のあり方がとられているものだろう。タリバンには民主主義はのぞめそうにはないが、それについては、タリバンだけではなくて、西洋でいえばアメリカにも原理主義のところがある。アメリカは自国が善や正義だといったようにしていて、原理主義におちいっている。タリバンが悪いのだとしても、アメリカもそれに似たところがあり、大きなちがいがあるとは言えないところがある。アメリカは力の宗教による原理主義だ。

 原理主義にはよらないようにして民主主義によるようにして行く。それはなにもタリバンにかぎったことではなくて、アメリカにも求められることだし、日本にも求められることだ。原理主義におちいっている点では、タリバンかそれ以外かといったことではなくて、どこの国であったとしてもていどのちがいにすぎないものだろう。

 立憲主義が十分にとられていれば国の権力が暴走しづらいが、国の権力は何かと暴走しがちだ。どこの国にもそれが言えるのがあり、抑制と均衡(checks and balances)がきちんとかかっているとはいえないところがどこの国にもあるものだろう。日本でいえば、報道が国家のイデオロギー装置の性格を強めているのがあり、タリバンとそう遠くへだたっているとは言えそうにない。一権や一強になっているのが日本の政治である。

 参照文献 『憲法という希望』木村草太(そうた) 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫現代思想を読む事典』今村仁司編 『リヴァイアサン 近代国家の思想と歴史』長尾龍一原理主義と民主主義』根岸毅(たけし) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『ヘンでいい。 「心の病」の患者学』斎藤学(さとる) 栗原誠子