台風における避難所の対応と、社会がなすべき義務の違反―消極の義務と積極の義務

 ホームレスの人が避難所に来たら、嫌だ。テレビ番組の出演者はテレビ番組の中でそう言っていたという。

 強い台風がやって来たときに、ホームレスの人が避難所に避難しようとしたら、役人にこばまれた。その地域の住所がない人は避難所には入れないという対応をとった。それにまつわる発言だ。

 テレビの出演者は、ホームレスの人が避難所で避難するのはずるいとも言っている。台風がやって来る前は、屋根のないところにいたのに、台風がやって来るとなったら、屋根のある場所にいようとするのはずるいことだという。

 ホームレスの人は、ホームレスでいることが当たり前なのだから、一般の人を対象とした避難所に入ることはできないのだろうか。それはいけないことなのだろうか。

 ホームレスの人に焦点を当てるのではなくて、それをとり巻く外の社会に目を向けてみる。ホームレスの人ではなくて、それ以外の人に焦点を当ててみたい。そうすると、それ以外の人が、ホームレスの人にたいして、消極の義務の違反となることをしたことをさし示せる。

 消極の義務とは、自由主義で言われるような、他者に危害を加えてはらないないというものだ。他者危害原則である。そのほかに積極の義務というのもあって、これは他者に貢献することを行なうものである。

 積極の義務よりも消極の義務のほうが拘束力がより強いという。積極の義務は必ずしもやらなくてもよいもので、いわば努力目標(できたらよいこと)だが、消極の義務は守らなければならないものである。

 台風がやって来たときに、ホームレスの人が避難所に入るのをこばまれたことは、この消極の義務に違反することが行なわれたのだと見ることができるのではないだろうか。消極の義務が守られなかったから、ホームレスの人は避難所で避難することができなかったのである。

 われわれの社会では、台風がやって来たときに、ホームレスの人にたいして、消極の義務に反することが一部で行なわれた。結果としてそうしたことが起きたのだというふうに見なせる。社会(ホームレスではない人)がホームレスの人にたいして加害することを行なったのだというのはまぬがれない。生命にとって必要性が高いのにも関わらず、最低限の衣食住の充足の保障からしめ出された。きびしく言えばそう言える。

 参照文献 『貧困の倫理学馬渕浩二