万博への批判と、対話(dialogue)の重要性

 万博に反対の声をあげる。反対する人たちは、だいたい変な人たちだ。変なやつらだ。万博をよしとする野党の日本維新の会(第二自由民主党)の関係者は、テレビ番組においてそう言っていた。

 二〇二五年に開かれる予定の関西と大阪の日本国際博覧会がある。そのもよおしに反対する人たちは、みんなだいたい変な人たちなのだろうか。ふつうではない、おかしな人たちなのだろうか。

 事実と、価値をふ分けしてみたい。

 万博は、たんなる事実だ。何々であるの事実(is)にとどまる。

 何々であるの事実から、何々であるべきの価値(ought)を自動では導けない。事実から価値を自動でみちびいてしまうと、自然主義の誤びゅうにおちいってしまう。

 もよおしは、たんなる事実だ。もよおしに反対する人もまた、たんなる事実にすぎない。もよおしを行なう自由はあるだろうけど、もよおしに反対する自由もまたないとならない。

 上からの正義がある。それによりがちなのが日本だ。戦前の大日本帝国は、上からの正義を下の人々に押しつけた。それと同じ悪さがおきているのが万博だろう。

 上からの正義を押しつけないようにしたい。万博ではそれがいる。そうでないと、戦前の大日本帝国と同じあやまちをおかすことになってしまう。

 何々であるべきの当為(とうい、sollen)がある。万博では、それを上から押しつけるのは良くない。何々であるの実在(sein)をしっかりと見て行く。実在においては、万博をよしとするよりもむしろ、それに反対する声が少なくない。

 実在のところをないがしろにしないようにして行く。実在のところを重んじて行く。万博ではそれがいる。実在のところを見てみると、万博について色々な声がある。反対する声もけっこうあり、示威(じい、demo)の運動が行なわれている。

 反対の声をあげる人を、変な人だと見なす。そう見なすのは、反対する人を印つきとすることだ。有徴(ゆうちょう、marked)だ。万博をよしとする人は無徴(むちょう、non-marked)となる。

 万博をよしとする人は、はたして無徴なのだろうか。いっけんするとそうできなくはないが、よくよく見てみるとそうとは言い切れそうにない。万博を良しとするのは、一つの思想の傾向(ideology)であることはまぬがれない。

 反対の声をあげるのもまた一つの思想の傾向だ。万博を良しとするのにせよ反対するのにせよ、どちらであったとしても思想の傾向であることはいなめない。その点では共通点を持つ。

 立ち場はちがうのだとしても、お互いに共通点をもつ。それにおいてかんじんなのは、万博が、批判の声を排除する中で行なわれる点だ。批判の声を排除する形で行なわれるもよおしなのが万博なのである。

 もしも万博を良しとすることが無徴であるのだとすれば、万博は現実とぴったりと合う。思想の傾向におちいっていなくて、現実とぴたりと合うことになる。万博への批判はいらない。

 現実とぴったりと合っているのではなくて、それからかなり離れてしまう。現実とかなりずれたもよおしなのが万博だろう。現実とかなりのずれをもつので、思想の傾向におちいっているのである。現実とのずれをさし示す。ずれを明らかにすることがいる。

 万博への批判は、現実と万博がずれていて、思想の傾向におちいっていることを指摘(してき)するものだ。批判をすることが欠かせないのが万博だと言えそうだ。有徴にされているものである、万博への批判の声を、排除しないようにしたい。

 有徴にされている万博への批判の声を排除しないようにして、きちんと受けとめないとならない。批判の声を否認しないで承認して行く。ちがう立ち場の者をおもてなしする、つまり客むかえ(hospitality)をなす。

 立ち場がちがう者どうしで、交通し合う。交通(communication)の行動がいる。合意を目ざす対話が、交通の行動だ。いまのところ、ほとんどまったくと言ってよいほどに交通の行動ができていないのが万博だ。やるべきことができていないのである。反対の声を排除しているからだ。そこを改めるようにして行きたい。

 参照文献 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『すっきりわかる! 超訳「哲学用語」事典』小川仁志(ひとし) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫脱構築 思考のフロンティア』守中高明構築主義とは何か』上野千鶴子編 『カルチュラル・スタディーズ 思考のフロンティア』吉見俊哉(よしみしゅんや) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『本当にわかる論理学』三浦俊彦 『語彙(い)力を鍛える 量と質を高める訓練』石黒圭 『ヘンでいい。 「心の病」の患者学』斎藤学(さとる) 栗原誠子 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『逆説思考 自分の「頭」をどう疑うか』森下伸也(しんや) 『十三歳からのテロ問題―リアルな「正義論」の話』加藤朗(あきら)