記憶にないのと、政治におけるうそと(言葉の)交通―表象(代理)としての政治家

 記憶には無い。政治家が言いわけでそう言う。言いのがれるために、政治家が、(そのことについての)記憶が無いと言うのは、どうしてなのだろうか。

 ほんとうに記憶に無いのであるよりも、政治家が表象(representation)であるのがあらわれているのが見てとれる。

 表象に当たるのが政治家であり、あくまでも国民の代理にすぎない。記憶していることであったとしても、その記憶をそのまま言うのではなくて、さしさわりがあることは記憶に無いことにしてしまう。政治家が表象であることから、そうした行動が行なわれてしまう。

 与党である自由民主党の政治家は、韓国の新宗教(旧統一教会)と関わり合っていたけど、そのことは記憶にはないのだという。新宗教の会合に何度も出ていたり、関係者と何度も会っていたりするのにもかかわらず、その記憶が無いと言うのだ。

 新宗教と交通(関係)していたのに、その記憶が無いと言いつづけていた政治家は、大臣の地位をやめることになった。そのごすぐに、新型コロナウイルスの対策の本部長の役に命じられた。

 かんじんなことを記憶していない政治家が、新型コロナウイルスの担当の本部長をつとめられるかが、危ぶまれている。批判の声が投げかけられている。もしかしたら、新型コロナウイルスについても、記憶が無い、なんて言うことになるかもしれない。

 何がまずいことなのかといえば、記憶があるのかどうかの点ではなくて、政治家が表象であることから、うそをつきまくってしまう点だ。うそがまかり通ってしまう。

 たとえ記憶が無いのだと政治家が言っているのだとしても、それを頭から丸ごとうのみにすることはできそうにない。記憶にはあったとしても、それがないかのようにして、記憶にはないと言うことはできるから、記憶はあっても記憶に無いと言っている見こみが低くない。

 政治家が表象であるのは、政治家と国民そのもの(presentation)とのあいだにずれがあることだ。もしも政治家と国民そのものとが合っていて、ずれがないのであれば、政治家が国民にうそをつくことはおきない。政治家が国民にうそをつけば、国民をだますことになり、国民が損をこうむる。

 うそをつかないようにして、だましたりあざむいたりしてはいけないのがあるけど、現実論としては、政治家は国民にうそをつきまくれる。そこから危なさがおきてくる。

 じっさいにかんじんなことの記憶が無いのだとしたら、それはそれですごく危ないことだけど、それだけではなくて、政治家が表象であることに危なさがある。政治家が国民そのものと合っていれば、国民にうそをつきようがないけど、その二つのあいだにはずれがあるから、うそをつけてしまう。

 語り(カタリ)の危なさが政治家にはあるから、そこに気をつけるようにしたい。報道で、権力の監視がしっかりとなされていないとならないだろう。政治家が、記憶に無いと言うのは、語りによるものであり、国民にたいする不誠実な語りだろう。

 国民への不誠実な語りである、国民にうそをつくことは、国民が損や害をこうむるおそれがあるから、きびしく批判されることがいる。政治でうそがまん延してしまうと、国民に損や害を与えることが色々に行なわれてしまう。

 交通では、うそをつくのは、反交通だ。交通がさえぎられていて、国民に本当のことが知らされない。政治家が国民にたいして本当のことを言わない。

 政治ではなくて、それ以外の世の中においては、うそはあるていどいる。うその、反交通のやり取りは、あるていどはいるのがある。遠まわしに、間接にそれとなく言う。じかにずばっとは言わないようにする。言葉の多層性だ。

 世の中とはちがって、政治において、うその反交通がなされてしまうと、国民に損や害がおきかねない。政治家がうそをついていないかどうか、報道がしっかりと監視していないとならない。報道の自由がじゅうぶんにあることがいる。いまの日本では、(きびし目に見れば)報道の自由がそうとうに損なわれている。情報の民主化がいる。

 人間は、記憶する動物だから、ふつうは色々なことを記憶しているものだ。できるだけ記憶が確かであることがいるけど、それにくわえて、それとは別に、政治家は表象だから、その語りにはくれぐれも気をつけないとならない。

 人間は記憶する動物であることからは、歴史なんかで、歴史修正主義がおきているのがあり、よくないことだ。個人として、新宗教との交通の歴史を、歴史修正主義でかってに修正しているのが自民党の政治家だ。国の歴史についても、歴史修正主義で負の歴史を隠ぺいしているのがある。日本がかかえる負の歴史を、しっかりと想起(記憶)するようにして、風化させないようにして行きたいものである。

 参照文献 『政治家を疑え』高瀬淳一 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『あいだ哲学者は語る どんな問いにも交通論』篠原資明(しのはらもとあき) 『うその倫理学』亀山純生(すみお) 『日本語の二十一世紀のために』丸谷才一 山崎正和 『歴史 / 修正主義 思考のフロンティア』高橋哲哉 『うたがいの神様』千原ジュニア