たくさんお金をかせげる大学がえらいのか―学問がお金をかせぐことはいるのか

 お金をたくさんかせげる大学を目ざす。与党である自由民主党菅義偉首相の政権はそれを打ち出している。

 菅首相による政権がすすめようとしているように、大学はできるだけ自分たちでお金をたくさんかせげないとならないのだろうか。たくさんのお金をかせげる学問がよりよいことになるのだろうか。

 かりに市場主義によるのであれば、お金をたくさんかせげるものがすぐれていることになる。少ししかお金をかせぐことができないものはよいものではない。

 学問は市場原理にはなじまないものだろう。それゆえに、菅首相による政権がすすめようとしているのとは逆のことが言える。学問をになう大学は、むしろお金をたくさんかせがないようにするべきなのである。たくさんのお金をかせぎたいのならば商売をやればよいのである。

 テレビの世界でいうと、視聴率が高いテレビ番組がすぐれているとは言い切れそうにない。視聴率が高くても内容がまずしいテレビ番組はたくさんある。

 内容のよし悪しは視聴率ではかることはできづらい。視聴率の高さを競ってしまっていて、それを争ってしまっているから、いまの日本のテレビの世界は目をおおいたくなるようなさんたんたることになっている。

 書籍の世界を見てみると、たくさん売れている本がすぐれているとは言えそうにない。それとは逆に、ベストセラーになるような本は当たりよりもはずれのほうが多い。売れ行きと内容のよし悪しはあまり相関しない。負の相関(反比例)があるくらいである。

 いっけんするとお金をたくさんかせぐことができるものはすぐれているようではあるが、市場主義のものさしを当てはめてみたさいにそう言えるのにすぎない。市場原理になじまないものはたくさんあるので、そこを見て行くことがいる。

 政治の世界を見てみれば、支持率が高い政党や、票をたくさん得られている政治家がすぐれているとは必ずしも言えないものだろう。ことわざで言う憎まれっ子世にはばかるとか、悪貨は良貨を駆逐するといったことがおきている。グレシャムの法則がはたらいている。

 何かをなすさいの動機づけ(motivation)として、外発と内発がある。外発は利益や報酬を得ようとするものだ。内発はことがらそのものに興味や関心をもつことだ。

 お金をたくさんかせごうとするのは外発に当たるものであり、そこに力を入れすぎると内発の動機づけが減退する効果がはたらいてしまう。この効果がとくに見られるのが政治の世界ではある。日本の政治の世界では、政治をきちんとやって行こうとする動機づけが低いが、これは(おもに与党である自民党が)外発の動機づけで動いてしまっているからである。

 市場主義をよしとしすぎるのは新自由主義(neoliberalism)から来ているものである。それをあたかも正しいことであるかのようにして、さまざまなものに押しつけて行くのには無理がある。市場主義によってうまく行くこともあればうまく行かないこともあるのだから、何でもかんでもそれによってうまく行くものではない。市場がもつ悪い働きがわざわいしていることは無視することができそうにない。市場がよしとされることで貧富の階層(class)の格差がどんどん開いて行く。

 お金をたくさんかせげるかかせげないかは、あくまでもものごとの一面でしかないものだから、ほかのいろいろな面を見て行くことが欠かせない。ものごとが無駄なものなのかどうかは、どういう目的なのかとどれくらいの期間なのかとどういった立ち場なのかによる。目的や期間や立ち場がどうかによって、無駄なのかそうではないのかが変わって行く。

 ほんらいお金は道具や手段にすぎないものなのだから、それそのものをたくさんかせぐことがいるのだとは言えそうにない。道具や手段をたくさん持っていても、それを何のために持っているのかが定かではないのであればむなしいだけだ。たくさんのお金をかせごうとするのは、それそのものを目的とするのにはいささか無理がありそうだ。

 道具や手段にすぎないものを目的にしてしまうと、手段の自己目的化になる。最終の究極の目的となるものがお金をかせぐことではないのだから、それそのものを絶対にしてゆいいつの目的とすることはできづらい。絶対にしてゆいいつの目的とは、目的の目的の目的のとつづく目的の連関のいちばん最後にある目的だ。学問があつかう知は、お金とは性格がちがうような、抽象や普遍の価値をもつものの一つだろう。

 お金などの量の多い少ないでははかることができない価値はたくさんあるものだろう。量の多い少ないでものごとの価値を決めつけすぎるのは理性の道具化がおきていることであり理性の退廃である。

 参照文献 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『無駄学』西成活裕(にしなりかつひろ) 『学ぶ意欲の心理学』市川伸一 『現代哲学事典』山崎正一市川浩