くじらの怒り

 アメリカはかつてくじら漁を行なっていた。捕鯨船で、くじらを大量に捕り、絶滅に近いまでに追いこんだことがあるという。

 漁のやり方としては、まず、人間にたいして警戒心のない子どものくじらをねらう。子どものくじらを殺して、心配して近くに寄ってきた親のくじらを殺す。そうしてくじらを捕っていた。

 このくじらのとり方をすることで、くじらは人間にたいして憎しみをもつ。人間が乗った捕鯨船などをおそうようになる。船にしっぽを当てたり頭をぶつけたりして転ぷくさせて人間を海につき落として命を落とす人が出たという。くじらは人間を憎んで船をおそうことから、悪魔の魚と呼ばれるようになった。

 くじらが人間を憎むのはもっともなことである。くじらにおそわれて船を転ぷくされた人は気の毒ではあるが、人間がくじらにたいしてやったことをくみ入れると、くじらが人間にたいして不当なことをやっているとは言えそうにない。それなのに、人間はくじらのことを悪魔の魚と呼ぶのは、人間に都合がよいかたよったとらえ方だ。くじらにとっては人間のほうが悪魔だとなる。

 くじらはもとから人間にたいして敵意をもって憎んでいるのではないという。アメリカはくじらを捕ることをやめることで、時間が経つうちにくじらは人間にたいして憎しみを持つことがなくなり、友好な態度を示すものも中にはいるという。この話は、国どうしの歴史の話にも当てはめてみることができるところが多少はある。