人間と時間性―過去と現在と未来をもつ

 いままでの人生はよかった。さまざまなよいことがあった。これから先には、これまで以上によくなって行くことはのぞめない。悪くなって行くことになる。

 自分の人生の来し方と行く末を、このように見なすことがある。なぜこのように見なすことがおきるのだろうか。それは、人間が、時間性の中で生きているためかもしれない。

 人間は過去と現在と未来の時間性の中で生きている。そうであることから、これまではよかったと過去を美化することがあるし、これから先にはおそらく悪いことが待っていて、これまでより以上によいことはおこらない、と未来をうれうことがある。

 人間が時間性の中で生きていて、過去と現在と未来をもつことは、プラスにはたらくこともあるが、マイナスにはたらくこともある。もしも現在だけに生きているのであれば、過去をふり返ることはないだろうし、未来をうれうこともまたないだろう。過去を苦にしたり、未来をうれいたりすることがないのであれば、現在にただ生きるだけであって、現在に安らいつづけることができる。そこに安住することができる。現在からすれば、過去も未来も幻想だろう。

 ただ現在に安住するだけでよいのかというと、そうとは言い切れそうにない。現在の認知のゆがみ(現在バイアス)がはたらくとまずいとされている。これは、未来よりも現在のほうをより優先してしまうことでマイナスにはたらくものである。人間にはその傾向があると行動経済学では言われている。国の財政で借金が多くたまって行ってしまっているのは、未来よりも現在をより優先させてきたのが大きい。

 人間が時間性の中で生きていて、過去と現在と未来をもつことは、プラスであることなのか、それともマイナスであることなのだろうか。それをどう見なすのかは、閉じているのではなくて、開かれていることであるかもしれない。

 参照文献 『現代思想のゆくえ』小阪修平