お礼を贈る

 コンビニエンスストアのトイレに入る。すると、そこには、こんな文言が書かれてある。いつも清潔にご利用いただきまして、まことにありがとうございます。お店側としては、トイレを使うお客さんにあまり便器を汚してほしくない。なるべくきれいに使ってもらったほうが、掃除をするときの手間も少ないのだろう。そうした理由から書かれているものであると察せられる。

 先にお礼を書いておくやり方は、贈与論の観点から見ることができそうだと感じた。お礼が書かれているのを見たお客さんは、前もってお店からお礼を贈与されたことになる。なので、その返礼をしないとならない。お返しとして、お礼で期待されているような行動をとるわけである。そうすることで、借りがなくなり、つり合いがとれるようになる。なかには神経が太い人もいて、まったく注意書きに無頓着でも平気な場合もあるかもしれない。

 こうしたやり方は、国と国とのあいだの平和につなげることに役立たないだろうか。仲が悪くなってしまった国にたいして、あらかじめお礼を言っておく。そうすることで、その国に贈与して、貸しをつくるのである。うまくすれば相手の国をこちらの意に沿うように誘導することができる。そうはいっても、もし見透かされてしまえば、見え透いた手のために、かえって逆効果にはたらくこともありそうだから、現実には難しいかもしれない。浅知恵ではあるが、もし相手がうまく受けとれるような球を投げられれば、少しくらいは効果があるかも。企てというよりは、試みとしての切り口だ。

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