布マスクを二枚ほど世帯にたいして配る政策について問いただす。朝日新聞の記者は首相の会見でそうしたところ、首相は反論をしていた。
朝日新聞もまた三三〇〇円でマスクを売っていたことを首相は受け答えで持ち出していた。なんで首相が朝日新聞についての細かい情報を会見のやり取りの中でとっさに口にできるのかが少し気にかかる。
首相が言っていることは、まともな反論になっているとは言えそうにない。首相が言っていることは、修辞学で言われるお前もそうだろうの論法である。これは形式としては詭弁である。言っている人がどうなのかという、人にうったえる議論だ。
お前もそうだろうの論法は英語では you too に当たる。ラテン語では tu quoque とされる。類似性があることによるが、政権が行なう布マスクが二枚の政策と、朝日新聞が三三〇〇円でマスクを売っていたのは、類似性というよりは差異によるものである。同じものとして持ち出すのは適していない。
政権と民間企業の点で立ち場がちがうし、マスクの価格や質がちがう。同じことを同じようにやっているものではないから、お前もそうだろうの論法がそもそもなりたっているとは言えそうにない。首相は論点をごまかさずに、まともに問われたことについて受けとめて答えるようにしたらどうだろうか。
参照文献 『レトリックと詭弁 禁断の議論術講座』香西秀信