かっこよさと価値―かっこ悪さと反価値

 『「カッコいい」とは何か』平野啓一郎(けいいちろう)、という本を見かけた。手にとって目次をちょっと見てみただけで、中身はまだ見ていない。

 かっこよさとは何だろうか。それは正の価値ということだろう。かっこ悪いというのは負の価値や反価値だ。

 かっこよさまたはかっこ悪さというのは主観または相対の価値であって、客観や絶対のものだとは言えそうにない。数字による定量のものではなくて、定性や質感(クオリア)による。

 仏教ではすべてはみな空(くう)だと言われるのがあるのからすると、価値や反価値は色(しき)であって、主体の価値意識の投影にすぎず、客観には空だということになるかもしれない。

 仏教による色というのが有る(ザイン)ことで、空というのが無い(ニヒト)ことだとすると、色と空からかっこよさまたはかっこ悪さが生成(ヴェルデン)される。生成されたかっこよさやかっこ悪さは、固定されたものというよりは、生成変化して行く。かっこよさとかっこ悪さのあいだに引かれる分類線は揺らいでいる。そうとらえることができるだろう。

 かっこよさや悪さには再帰性(reflexivity)がある。再帰性というのは社会学で言われているものである。あるものがかっこよいまたはかっこ悪いとされることによって、そのかっこよさやかっこ悪さがなりたつ。かっこよいまたはかっこ悪いものと、それをかっこよいまたはかっこ悪いと思うこととが、互いに循環する。思うことによってそれがなりたつところがあって、思うことのほうが先行するとも言える。

 参照文献 『人間と価値』亀山純生(すみお) 『人生のほんとう』池田晶子(あきこ) 『構造主義がよ~くわかる本』高田明典(あきのり) 『日本を変える「知」 「二一世紀の教養」を身につける』芹沢一也(せりざわかずや) 荻上チキ編 『現代思想を読む事典』今村仁司