選挙で勝つことと、勝った者による愚かな決定のおそれ

 選挙で勝った。勝った者が政治の権力をにぎる。勝った者はすごくて、負けた者は駄目なのかというと、必ずしもそうとは言い切れない。

 勝って、政治の権力をにぎる者が、愚かな決定をしてしまうことがある。そこに気をつけることがいる。

 国家主義が力をもつ動きがおきている。国家の公と、個人の私では、国家の公の力が強いために、国家の公が勝つことがある。国家の公と個人の私が対立したさいに、国家の公が勝ってしまうことが少なくない。

 作家の村上春樹氏の例えで言うと、国家の公(壁)のほうが、個人の私(卵)よりもえてして強い。卵よりも壁のほうが重んじられて、強い壁がまちがうことはおきがちだ。強い壁が卵を押しつぶすことは戦前や戦時中に見られたことだ。

 勝ったことによって政治の権力をにぎる者が、どういうことを目ざしていて、そこにいたるためにどういうことをするのかを、細かく見て行くようにしなければならない。

 勝って権力をにぎる者がまちがったことをしたり愚かな決定をしたりすることはたちが悪い。いまの日本の社会が、さまざまなやっかいなことがらを抱えこんでいるのは、これまでに勝って権力をにぎってきた者たちが、まちがったことをしたり愚かな決定をしたりしてきたのがあるからだろう。

 勝った者がまちがったことや駄目なことをしたというのは、いままでに少なからずおきてきたことなのがある。国家の公は、個人の私に比べて、力が強いので、勝つことになりやすい。そうして勝った権力をになう政治家や高級な役人が、いままでにおかしてきた失敗やまちがいは、けっこうあるのにも関わらず、その暗部にたいして十分に光が当てられていない。

 勝った者が正しいことをやるのであれば、分かりやすい話だが、現実にはそのような順説だけではなくて、逆説がはたらくことが少なくない。負けおしみだと言われてしまうかもしれないが、力を持っていて勝ってしまうから駄目なこともある。負けても正しいこともある。

 勝った者はすぐれていて、負けた者は駄目だというのなら、垂直による見なし方だが、水平に見ることもまたなりたつ。水平に見ることで、ほかの見かたがとれるので、場合分けをすることができる。

 場合分けをするとすれば、無益に勝ってしまうことがあるし、有益に負けることがある。勝った者が害をなすことがあるし、負けた者が益となることを示せることがある。答えとなるものが一つだけなのであれば垂直の見なし方だが、そうではなくて水平に見られるとすれば、さまざまな相対の答えがなりたつ。

 参照文献 『公私 一語の辞典』溝口雄三 『愚かな決定を回避する方法 何故リーダーの判断ミスは起きるのか』クリスチャン・モレル 横山研二訳 『思考体力を鍛える』西成活裕 『逆説の法則』西成活裕 『正しさとは何か』高田明