出版社の社長が、勝手に本の実売部数を公にした。自分が気に食わない作家の、自社で出している本について、ツイッターのツイートで実売部数はこうだったというふうにあらわにしたのだ。これにたいしてほかの作家をはじめとしてさまざまなところから批判が投げかけられている。
正義(公平)原則をもち出してみると、同じものには同じあつかいをするべきだから、特定の作家のものだけを公にするのはおかしい。もともとそうであるように、すべてを非公表にしておくか、もしくはすべてを公表するべきだろう。すべての作家のすべての本について同じあつかいをするのがふさわしい。
本の売れ行きというのは、多く売れれば中身がよくて、少なくしか売れないのなら中身がよくないというものとは言いがたい。宣伝に力を入れていれば多く売れてベストセラーになるのは当然だから、それをもってしてよい中身の本だとは言えないものだ。よりつっこんで言えば、ベストセラーの本には、むしろとるに足りないものは少なくない。
本の世界はできるだけ多様であるのがよいのだから、どれだけ売れたのかという数(量)でもってして値うちをはかるのはふさわしいことだとは言えそうにない。どれだけ売れたのかの量だけではかるのは単一や画一の発想だ。それよりも、量化することができづらい質(質感)のほうが大切である。学校の試験でいうと、どれだけ高い点数をとるかということを中心にすると、それを競い合うことになって、点数でははかれないことが捨象されてしまう。