弱いものいじめと強いものいじめ―権威主義による上から下への抑圧の移譲

 弱いものをいじめる。それがいけないのとともに、強いものいじめもまたよくない。テレビ番組の出演者はテレビ番組の中でそう言っていた。

 政治の文脈において、強いものがいるとして、それはいったいどういうものが当てはまるのだろうか。社会の中で弱いものいじめがまん延してしまっているのがあるとすると、それはいったいどういったことから来ているのだろうか。

 強いものいじめではなくて、強いものすがりがあるのだとすると、そこから権威主義がおきてくる。権威主義がおきてくることによって、上をよしとして下をいじめるあり方がおきてくる。上から下に向かって抑圧が押しつけられて行く。下に行けば行くほど抑圧が強くなっていって、下にいればいるほど抑圧が強くかかる。抑圧の移譲だ。

 強いものとは、他律(heteronomy)において超越の他者に当たるものだ。政治の権力が超越の他者になってしまうと、自発の服従がおきることになり、超越の他者によって動かされてしまう。超越の他者の顔色をうかがい、空気を読んでそんたくする。同調や順応のあり方だ。同調や順応の圧が強くはたらく。

 他律のあり方によることで、自律性(autonomy)が損なわれる。自律性が損なわれると、自由にものが言えなくなってしまう。報道の世界ではそれがおきているのがあり、理想論としての自由主義(liberalism)の公器ではなくなってしまっている。理想論と現実論とのあいだに大きな隔たりが開く。商売としての効率性はよいが適正さを欠く。放送においては放送法と放送の免許の許認可権があることから、政治の権力からの介入を受けやすい。言論に自由がなくなる。NHK にはとりわけそれがよく見てとれる。

 政治において敵かもしくは味方かといったような単純な分け方がとられてしまうと、敵とされるものを排除しようとしてしまう。敵と味方の遠近法(perspective)がとられると、敵をやっつけようとする排除の暴力がふるわれることになり、ぜい弱性や可傷性(vulnerability)をもつものが排除される危なさがおきてくる。

 ぜい弱性や可傷性をもつものは悪玉化されてしまいやすい。悪玉化されて排除されるものがいることによって、差別による秩序が固定化されることになる。差別による秩序の固定化を改めて行くためには、悪玉化されて排除されるものを客むかえすることが必要だ。よき歓待を行なう。低い価値をもつとされる階層(class)をそのままにしておくのではなくて、それをすくい上げるようにして改善することがのぞましい。

 政治において強いものがそのままでありつづけると権力が腐敗して行く。それがおきやすいのがあるから、政治の権力の交代が必要だ。権力の交代がないと権力の中心にうみや汚れがたまりつづけて行く。うみや汚れを少しでも減らして行くためには権力の中心にいるものがそのままいつづけるのではなくて、脱中心化が欠かせない。

 政治において政党(political party)は全体ではなくて部分(part)にすぎないのだから、脱全体化されなければならない。あたかも国の全体を代表しているかのごとくに見せかけるのは誤りだろう。民主主義では多数派の専制がおきてしまう危なさがつねにある。それに気をつけて気をつけすぎることはないから、少数派をきちんと承認して、客むかえ(hospitality)やよき歓待が行なわれることがあればよい。

 日本の政治ではいまのところ客むかえやよき歓待がいちじるしく欠けてしまっている。それがあることによって自律性が損なわれている。ものを言う言論の自由が失われているところがあり、報道などにおいて不自由になっている。自由民主主義(liberal democracy)が壊されているのがある。普遍化することができない差別が多く行なわれてしまっているからそれを改めるようにしたい。

 政治の中心にそうとうなうみや汚れがたまっているのがあり、与党である自由民主党にはもはや自分たちで自分たちをきれいにする自浄の作用がのぞめないから、放っておくとうみや汚れがたまりつづけて行くだろう。中心にあるうみや汚れを少しでもきれいにして行くためには、中心で活躍しているものが脱中心化されることがいる。辺境にいるものがそうじの役をになうために中心で活躍できることがいる。

 参照文献 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『双書 哲学塾 自由論』井上達夫 『権威と権力 いうことをきかせる原理・きく原理』なだいなだ 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『アジア辺境論 これが日本の生きる道』内田樹(たつる) 姜尚中(かんさんじゅん) 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『NHK 問題』武田徹 『非国民のつくり方 現代いじめ考』赤塚行雄 今村仁司他 『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』佐藤優 井戸まさえ