首相が歴代で在職の日数が一位となることの、その数字のもつ意味あい

 首相の連続の在職日数が歴代で一位になるという。今年の八月二十四日でそれをむかえるという。そのいっぽうで、首相の健康の状態がおもわしくないとされ、これから先に首相の地位をつづける意欲がなくなっていて、首相の地位をやめることをもくろんでいるのだと報じられている。

 首相の長きにわたる連続の在職の日数の数字は、いったいどのようなことを意味しているととらえられるのだろうか。数字の意味するところは色々に見られるのはあるだろうが、日数の長さという量にくらべて、質の低さがあるのだと見なしてみたい。

 報道で報じられているように首相がこれから先に首相の地位にとどまる意欲をなくしているのだとすると、そこには首相の政治にたいする動機づけの弱さがある。動機づけには外発と内発があるとされるが、このうちで首相は外発の動機づけにかたよっていて、内発が弱い。

 外発の動機づけというのは人からほめられるとか、お金をもうけられるとか、支持率の数字が上がるとか、そういったことだ。そのいっぽうで内発の動機づけは内実によるものであり、たとえ人からほめられなくてもやるだとか、そのことにたいして関心があるからやるだとかというものだ。

 政治にたいする首相の動機づけは外発にかたよっているのがあるために、人からほめられるからだとか、支持率が上がるからだとかということで動いている。そのことによって理性が道具化して退廃を引きおこす。政権の支配の効率性は高いが、適正さや公正さを欠く。きびしく言えばいちじるしい理性の退廃がおきているのだと言わざるをえない。

 理性の退廃によって短期の利益を追い求めるようになり、いまさえよければとなり、長期の利益が軽んじられる。自由民主主義を保つためにはあるていど以上に長期の利益をくみ入れないとならないが、それがいまの首相の政権によって少なからず壊されてきた。いまの自分たちの政権さえよければそれでよいというところが多く見うけられる。普遍化できない差別(特別あつかい)やえこひいきが行なわれてきていて、不当な特権化がされてきた。

 ほんとうは政治の権威を自由に批判できるのがのぞましいが、それだと政権を保つのができづらくなるから、批判が排除される。政権を保つことが自己目的化することによって、政権への批判がよくないことだとされて、うとまれる。政権を批判をするのではなくて、権威をもつ政権をよしとして、それの言うことをすなおに聞き、すなおに従う。政権への参与がうながされる。政権への自発の服従だ。政権からの呼びかけに応じる主体の形成だ。政権に従うことで政権への参与が高まりつづけることになり、その負の作用がおきてくることになる。

 政権への参与が高まることには一面の合理性があるのはあるが、そのいっぽうで参与の上昇がおきることによって高次学習がはばまれる。低次学習にとどまりつづけることになるのがあり、そのことによって政権を保ちつづけることには益になるかもしれないが、局所の最適のわなにはまるおそれが小さくない。ほんとうにのぞましい大局の最適に少しでも近づくためには、低次学習によって局所の最適のわなにはまることから脱することが必要だ。

 政権による低い合理性の低次学習から脱するようにして、より高い合理性の高次学習に向かって行く。そのためには政権にたいする批判が十分に行なわれることがのぞましい。政権によって壊されている自由民主主義をとり戻すようにして、競争性のなさや包摂性のなさを改めて行く。健全な政党間競争(Party Competition)が行なわれるようにして行きたい。説明責任のなさを改めるようにして、しっかりと国民に説明できる人が首相になってもらいたいものだ。

 政権によって壊されたと見られる自由民主主義は、その壊されぐあいはけっして軽いものとは言えないのがあるから、軽んじることはできそうにない。政権が長きにわたってつづいたことによって引きおこされることになった自由民主主義の破壊と、それによるゆがみやひずみは、きびしく見れば深刻なものなのがある。

 説明責任の点では、たとえ国民にとって耳に快くないことであっても、国民にきちんとものごとを説明できることがあったほうがよくて、そのような説明責任を果たすことができる人が首相になってもらわないと、たとえば日本が置かれているきびしい国の財政のさし迫った問題などに目を向けることができづらい。国の財政については、楽観論と悲観論の両方がもてるかもしれないが、楽観論の欠点としては、このままでも何とかなるだろうということで、まちがった(神風)神話によってしまう危なさがある。

 参照文献 『学ぶ意欲の心理学』市川伸一 『組織論』桑田耕太郎 田尾雅夫 『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 井上達夫法哲学入門』井上達夫現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『「説明責任」とは何か メディア戦略の視点から考える』井之上喬(たかし) 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき)