ウイルスの感染がふたたび広まり出しているのは、国民の気のゆるみのせいなのか―心でっかちな精神論による見なし方

 国民の気がゆるんでいる。そのせいで新型コロナウイルス(COVID-19)が日本の社会のなかでまた広まり出している。専門家はそう言っている。国民の気がゆるんでいるせいでウイルスが広まってしまっているのだろうか。

 国民の気のゆるみによるのだとするのは心でっかちな見なし方だろう。精神論によるものだ。

 どのようなことでウイルスの感染の広まりがふたたびおきてしまっているのだろうか。それを見て行くさいには、その要因をできるだけ体系として見て行くようにして行きたい。日本の社会が苦手としているのは、要因を体系として見て行くことである。ウイルスの感染を防ぐなかで日本の社会がもつ苦手なところがあらわれ出ている。要因を体系として見られていないうたがいがある。

 修辞学の議論の型(topica、topos)の因果関係からの議論で見てみられるとすると、ウイルスの感染がふたたび広がっているのは結果だ。その結果がどういった原因によっておきたのかを見て行く。結果がおきてから原因をさかのぼって見て行くのがあり、そこで国民の気のゆるみが原因だと言われても、時すでに遅しといったところがあり、事後になって気のゆるみのせいだと言われても、後づけの理由のようなところがある。

 何のせいかわからないのではまずいのがあり、とりあえず何かのせいにしなければならないから、気のゆるみが持ち出されているようなふしがある。もしもウイルスの感染が広まり出したとしたら、国民の気のゆるみのせいにしておこうとか、気のゆるみのせいにしてしまおうといったような手だてに利用されているところがないとは言えない。

 ウイルスの感染を防ぐ中で、国民ができることをやって行く。そのことについてを悪いのとふつうとよいの三つに分けてみたい。悪いのはやるべきことができていない。ふつうはそれなりにできている。よいはかなりできている。

 たとえ国民の気がゆるんでいるのだとはいっても、国民がやるべきことをほとんどやっていないとは言えそうにない。それなりにはやっているのはあるだろうから、悪いとふつうとよいの三つに分けた中では、ふつうくらいにはなっているものだろう。悪いからふつうに引き上げるのはそれほどむずかしくはないだろうけど、ふつうからよいに引き上げるのは難しい。国民にそうとうな誘因(incentive)がはたらかないとそれはできづらい。

 ウイルスの感染を防ぐために、このようにするべきだといったようなあるていどの大まかな方向性はあるから、その中で悪いからふつうに引き上げる誘因はそれなりにはたらく。そこまではできるとしても、ふつうからよいに引き上げる誘因ははたらきづらい。ふつうにとどまりつづける誘因がはたらいてしまう。

 ふつうにとどまりつづける誘因がはたらくのは、のび悩み(slump)があることを示す。のび悩みの現象がおきている中で、そのことを国民の気のゆるみのせいだとするのは、現象の原因まで深く掘り下げた見かただとは言えそうにない。

 そもそもの話として、ふつうからよいに引き上げるのは難しいのがあるから、そうとうなやる気がなければそれはできづらいだろう。国民がまったく気がゆるみ切ってしまっているのではないだろうし、あるていどのやるべきことはやれているのはあるだろう。少しくらいはやるべきことはできているのはあるだろうから、それより以上を求めるのであれば、そもそもの話として、かなり難しくなってくる。

 たとえ国民に気のゆるみがあるのだとしても、その気のゆるみ方は色々に見なせるのがあるから、修辞学で言われる多義またはあいまいさの虚偽におちいるところがある。国民の気がまったくゆるみ切っているのではなく、そうかといって気が引きしまっているのでもない。気がゆるみ切っているのではないのは、気がゆるみ切っているよりかはよいことだが、理想と言えるほどには気が引きしまってはいない。

 国民の気がゆるんでしまう誘因がはたらく。気がゆるむような誘因が色々にあるのだとすると、それをとり除くようにするのは手だろう。気がゆるんでしまう誘因として、政治の時の権力のことを信頼することができない。公人である政治家や上級の役人が政治においてうそを多くついているために、言っていることが信頼できない。公人である政治家や上級の役人が悪いことをやっても甘く許されている。上に甘くて下にきびしい二重基準(double standard)になっている。こうしたことがあるから、国民の気がゆるんでしまう。気をゆるませることになるもとである、政治における不正を改めるようにすることがあったらよい。

 参照文献 『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』長谷川眞理子 山岸俊男 『議論入門 負けないための五つの技術』香西秀信 『「こつ」と「スランプ」の研究 身体知の認知科学』諏訪正樹(すわまさき) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一