短期と長期の枠組みのちがい―短期の利益を追うべきか、長期の利益を追うべきか

 長期の利益を追うのか、それとも短期の利益を追うのか。その二つのうちのどちらをやるようにするべきだろうか。

 長期の利益を追うようにすれば法の決まりを守りやすい。自由主義(liberalism)を保ちやすい。法の決まりは短い期間ではなくて長い期間においてはじめて利益が見こめるものだとされる。

 自動車を運転するさいには運転手はできるだけ遠くに視点を置いたほうが安定して走行しやすい。近くに視点を置いてしまうとふらふらとした不安定な走行になりやすい。自動車の運転で運転手が遠くに視点を置くのは長期の視点で、近くに視点を置くのは短期の視点になぞらえられるかもしれない。

 あした世界が終わるとすると、そこで法の決まりを守る人はあまりいないだろう。あした世界が終わるのだとすれば、そのさいに法の決まりを守ってもあまり意味がない。あした世界が終わるのだとすれば長期の利益がなりたたなくなるから、短期の利益しかなりたたなくなり、多くの人が短期の利益を追うようになるだろう。秩序がなりたたなくなって混沌が生じてくる。秩序よりも前に混沌がより根源としてあるとも言える。

 これから先に確実にいまのあり方が引きつづくとは言い切れないのがあるので、今日にでもまたあしたにでも何か大きな負のできごとがおきないとは限らない。それによって前とあととのあいだに断絶や切断が引きおこる。長期の視点をとろうにも、そこには不確実性がいやおうなしに避けがたくつきまとう。まったくもってこの先は安泰そのものだとは言い切れそうにはないので、先行きにたいするばく然とした不安が引きおこる。まったくもって安定した確かな揺るぎのない大きな物語はとりづらい。先行きがすっきりときれいに透明に見通せるとは言い切れず、不透明さがある。

 短期の利益を追うようにすると、いっけんするとすぐに利益が得られるような気がするが、そこには危うさがあることがいなめない。法の決まりがないがしろになって破られやすい。自由主義が損なわれてしまいやすい。科学のゆとりを持つことができづらいのがある。ついあせりがおきる。失敗がおきるときにはあせっているときが多い。この具体の実例はさいきんでは日本の国の政治やアメリカの国の政治などに見られる。

 いっけんすると短期の利益を追ったほうがすぐに利益が得られそうな気がするが、ほんとうに利益が得られるとは言い切れず、かえって損や害がおきることがある。利益ではなくて逆に損や害がおきてしまうことについてを気をつけて気をつけすぎることはないだろう。

 おたがいの持っている枠組みがずれているさいに、短期の利益による枠組みによるのと長期の利益による枠組みによるのとのちがいがある。この二つのそれぞれの枠組みがずれているさいに、お互いに見ているところがちがっていて、うまく折り合わなくなる。そこについてをうまく折り合いをつけるようにして、短期の利益だけによってつっ走っていってしまわないようにしたい。

 短期の利益の枠組みだけによってつっ走っていって大きな失敗をしたことは、歴史をふり返ってみるとたくさんある。戦前や戦時中の日本の国は、いろいろなちがいのある意見や声をくみ入れることをせずに、ただたんに日本の国は正しいとすることによって、短期の利益をとろうとしてつっ走っていって大きな失敗をおかした。ただ一つだけの日本の国をよしとする意見や声だけを許した。国家の公が肥大化して、個人の私を押しつぶし、その時点の国家の短期の利益をすぐに手に入れようとしてむぼうな行動を国家が行なった。

 日本の国はよくないとかだめだとするのは、たとえ短期の利益にはならなくても、長期の利益になることはある。ことわざでは良薬は口に苦しとされる。日本の国をよしとするのは、たとえ短期の利益にはなるのだとしても、長期の利益にはならないことがある。ただたんに日本の国をよしとするだけで、日本の国のことをたとえ少しであったとしても悪く言ってはならないとするのは、もっぱらその時点での短期の日本の国の利益を追うことであり、長期の日本の国の利益にはかないづらい。いまの時点ですぐに短期に日本の国のことをよしとされたりほめられたりしたいといったことだ。

 作物を育てるさいには、できるだけ早く育ってすぐに収穫できるようなやり方があるが、そうではなくてじっくりと時間をかけて育てて行くやり方もまたあるものだろう。いまの日本の国では、できるだけ早く育ててすぐに収穫を得ようとするところがあり、じっくりと時間をかけて育てて行くようなゆとりが欠けているところがある。

 ものを温めるさいには、すぐに温めようとしても表面の浅いところしか温まりづらいことがあり、じっくりと時間をかけることによって表面だけではなくて芯の深いところから温まるようになることがある。すぐに温まりはするが表面の浅いところだけしか温まらないことがもてはやされていて、じっくりと時間をかけることはいるが芯から深く温まるようなことはうとんじられがちなのがある。

 いろいろな課題が山積している課題先進国なのが日本の国なのだから、それらを何とか片づけるためにはゆうちょうなことを言ってはいられないのがあるから、のんびりとやれるようなゆとりがないのがあり、速度の速さ(早さ)が求められるのは一方においてはたしかだ。のんびりとだらだらとやっていては駄目であり、きびきびとした速度の速さ(早さ)が危機管理においてはいることはたしかだ。時間は有限であり、貴重な資源(resource)の一つであって、ことわざでは時は金なりという。いたずらに時間を失ってしまってはよいことではない。

 速度の速さ(早さ)がいるだけではなくてもう一方においてはできるだけ長期の視点をもつことが欠かせない。短期の利益の枠組みと長期の利益の枠組みのどちらかだけにかたよりすぎず、どちらかだけを絶対化せずに、どちらも相対化しながらやって行く。とりわけ短期の利益の視点にかたよりすぎることには何らかのしっかりとした歯止めがあったほうがよい。その歯止めが欠けていると、速度は速くて(早くて)効率性はきわめて高いが、適正さがいちじるしくなくなることがある。

 参照文献 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ) 『ブリッジマンの技術』鎌田浩毅(ひろき) 『文学の中の法』長尾龍一 『公私 一語の辞典』溝口雄三 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『創造力をみがくヒント』伊藤進