レトリックの痕跡(残された跡としてのレトリック)

 それは一つのレトリックとして言ったことだ。テレビ番組で出演者はそう言っていた。自分が発表した文章の中の表現を、一つのレトリックとして言ったものにすぎないとしている。

 テレビ番組の出演者が言うことを聞いていて、自分が発表した文章の中の表現をレトリックだと言ったこともまたレトリックなのではないかという気がした。何々はレトリックだ、と言ったことがレトリックだというのは否定しきれない。

 レトリックとして言ったというのは、メタ言語だろう。レトリックとして見よということである。そのメタ言語もまたレトリックとなっていることがある。そうなると、レトリックであるものが無限に遠ざかって行くことになる。けっきょく何なのだとか、つまるところどうなんだということになる。