疑惑とされることについての首相の往生際の悪さがある(かりにまったく非がなかったとしても、非があると疑われかねないことをしたのなら、権力者としては非を認めるべきだろう)

 利害関係に当たる人と、ゴルフや会食をする。省庁の役人と銀行の頭取りがそれをしていたことがあった。この件では、役人と銀行の頭取りは、利害関係ができてからゴルフや会食をはじめたという。

 テレビ番組の中で、首相は利害関係にある者とゴルフや会食をしていたのを問われた。そのことについて首相は、例として引き合いに出された、省庁の役人と銀行の頭取りのあり方とはちがうのだと言っていた。自由民主党の総裁選の話し合いをする番組であり、番組には首相と候補者の石破茂氏が出ていた。

 利害関係になってから親しくしたのではない。利害関係ができてからつき合いがはじまったのではない、と首相は言う。私の場合は、もともとの友人である。ずっとつき合っている。

 テレビ番組の司会者は、首相の言いぶんについてちがう見かたを示す。首相は学生時代からの友だちだったと言うが、たとえ学生時代からの友だちであっても、省庁の役人と銀行の頭取りはゴルフをしてはいけない。学生時代に友だちだったからよいだろうというのは理由にはならない。ゴルフをしたり会食をしてごちそうになったりしてはいけない。頻ぱんにゴルフや会食を重ねるのは、たとえお金をもらわないとしてもおかしいことである。

 司会者は、石破茂氏にも話をふる。もしも石破氏が首相と同じ立ち場であったとする。自分の昔から友だちの人と、利害関係に当たることになり、ゴルフや会食をするかどうか。そう聞かれた石破氏は、こう返す。自分が職務権限を持っているときは、少なくともゴルフや会食はしない。権限をもっているあいだは接触はしない。あらぬ誤解を受けるのを避けるようにする。

 石破氏が言っていることは、一般論として正しいものだろう。司会者の言っていることと同じ見かたである。いっぽうで、首相の言っていることは見ぐるしい言い逃れであり、個人的にはほとんど言っていることの説得力が感じられない。ほかの人にはまたちがう受けとり方があるかもしれないが。

 二つのへんてこさがある。一つは、テレビ番組に、わざわざ国の長とそれになろうとする候補者が出ているのに、なんでゴルフや会食といったとてもくだらない話題がとり上げられているのかである。このくだらない話題に、首相は自分の言い逃れのために、長々と言葉をついやす。だらだらと言葉を並べ立てるのは時間の無駄であり不親切である。短く核となる結論だけを言えばよい。

 もう一つのへんてこさは、くだらない話題なのにもかかわらず、首相がそれにきちんと答えていないことである。テレビ番組の司会者から問いたずねられたことにまともに答えていない。政治の不正の疑いとしてはとり上げる値うちのあることだが、話そのものはくだらないのだから、さっさと切り上げるようにして、簡単に核となるところだけを述べられればよい。首相はそうではなく、核となるところのまわりにあるところを不毛にぐるぐると回っている印象だ。

 利害関係がおきてからゴルフや会食をしはじめたか、それとも利害関係がおきる前から友だちのつき合いがあったかの二つはちがう。首相はそのちがいを意味のあることのようにしているが、そこは論点からずれたものである。わざとかどうかは定かではないが、そこは論点からずれているものなのにもかかわらず、へんなとり上げ方をしてしまっている。

 利害関係がおきてからではなく、その前から友だちのつき合いがあったのだとしても、それでよいことにはならない。司会者はそれを指摘しているのに、首相はそれを受けとれていないようだ。前から友だちのつき合いがあったからよいのではなく、そうであっても駄目だし、むしろそうであるならなおさら駄目だろう。疑われるのは予想できることであり、予想していなければ駄目なのがある。

 司会者は、スポーツとしてのゴルフに偏見をもっている。首相はそう言う。ゴルフはいまはオリンピックの種目になっている。ゴルフが駄目で、テニスはよいのか、将棋はよいのか。

 首相は、司会者がゴルフにたいして偏見をもっていると決めつけているが、ゴルフにたいして偏見をもっているのではないだろう。ゴルフはいまはオリンピックの種目になっているといっても、だから何なのだという話である。ゴルフではなく、ゴルフをする人が問題なのがある。テニスはどうとか、将棋はどうとかというのも同じで、それをやる人のあいだがらが政治における利害関係者なのであれば、差しひかえないとならないものだろう。

 なんでゴルフは駄目なんだというふうに首相は言う。駄目な理由としては、かつて役人と銀行の頭取りなどの利害関係がある者どうしのあいだで不正や腐敗がおきたから、いけないことだとされている。それだから駄目なのだというのをなぜ受け入れないのだろうか。

 利害関係にある者どうしはゴルフをやってはいけないというのは原則論だろう。原則はそうなっているが、これは例外だというのではなく、原則そのものに首相はいちゃもんをつけている。それでゴルフのほかにテニスや将棋を持ち出して、焦点をぼやけさせようとしている。

 ゴルフをやってはいけないという原則がもしないとしたら、利害関係のある者どうしがゴルフをやり放題になる。いぜんはそうなっていたことで、不正や腐敗がおきた。それでやらないようにするという原則がとられるようになった。この流れがあるとすると、首相は流れを無視している。流れを無視して原則そのものにいちゃもんをつけてもしようがない。原則に反しているのだから、非を認めるべきなのはほぼ明らかなのを、首相は変にがんばっている。がんばるところをまちがえている。