大国どうしの、負の相互作用―ロシアの悪と、アメリカの悪

 ロシアは、ウクライナに戦争をしかけている。

 ロシアとウクライナとでは、どちらが悪いのだろうか。ロシアがウクライナに攻め入っているので、ロシアが悪いことになる。

 ウクライナがロシアと戦う。アメリカは、ウクライナを助けている。ウクライナを助けているアメリカは、善なのか、それとも悪なのだろうか。

 アメリカは、実践の正義をなしていると言えるのだろうか。アメリカがやっていることには正当性があると言えるのだろうか。

 ロシアは大国だから、軍事の力がそれなりに強い。ウクライナをしのいでいる。ウクライナがロシアと戦うためには、アメリカなどからの助けがいる。そこで、アメリカはウクライナを助けている。

 ウクライナは大国ではないから、ほかの国からの助けを求めている。そこで助けの手をさしのべているのが大国であるアメリカなどだが、そうなると、(ロシアとウクライナではなくて)ロシアとアメリカが戦い合っているようなことになる。

 大国どうしの戦い合いになってしまっているところがあり、そのさいの、ロシアとアメリカは、どちらかが善だとはいえそうにない。善と悪とが戦い合っているのであるよりも、悪どうしが戦い合う。ともに悪どうしであるロシアとアメリカが、戦い合っているのである。

 アメリカには正義が欠けている。正義が欠けている点では、アメリカはロシアや中国と似ている。新帝国主義によっているのが、アメリカやロシアや中国だろう。

 アメリカとロシアとの共通点として、大きい義を持ち出すのがある。小さい義であれば、法の決まりを重んじることになる。遵法(compliance)になる。国際法の決まりをしっかりと守って行く。

 ふつうは義の大きさが大きいものであるほど良いようではあるけど、それが小さいものであるほど良い。大きい義を持ち出すと、法の決まりをふみにじりやすい。法の決まりをやぶりやすい。短期の利益を追おうとしやすくなる。短期の利益につっ走ると、その時だけ良ければ良いのだとなるから、ほろびることになりやすい。

 義の大きさでは、大国であるアメリカやロシアは、どちらも大きい義を持ち出す。小さい義を軽んじる。大きい義を持ち出して、ロシアはウクライナとのあいだに戦争を引きおこした。アメリカはウクライナを助けるような形をしているが、ロシアと戦争をやり合っているところがある。

 アメリカやロシアのように、小さい義を軽んじて、大きい義を持ち出してしまうと、不義に転じてしまう。戦争は不義のことだから、ロシアにもアメリカにも義がないことがわかる。

 ロシアがウクライナに戦争をしかけているのは悪いことだから、ロシアを批判することがいる。ロシアの悪さを批判するさいに、そこにはアメリカや中国の悪さが含意されることになる。ロシアの悪は、アメリカや中国の悪を含意するから、それらの大国のすべてを批判して行くようにしたい。

 アメリカのせいで、ロシアが悪いことをやっている。アメリカの悪と、ロシアの悪は、負の相互作用によるものだ。小さい義をないがしろにして、不義をしでかしやすいのがアメリカである。複雑系(complex system)によって見てみると、アメリカの悪が、ロシアの悪をうながしているのがあり、ロシアだけのせいだとは言えそうにない。いっけんすると関係がなさそうな遠いものが引き金になることがあるのが複雑系だ。

 参照文献 『論理的な思考法を身につける本 議論に負けない、騙されない!』伊藤芳朗(よしろう) 『心理学って役に立つんですか?』伊藤進 『「複雑系」とは何か』吉永良正 『一三歳からの法学部入門』荘司雅彦 『増補 靖国史観 日本思想を読みなおす』小島毅(つよし) 『国家のエゴ』佐藤優 姜尚中(かんさんじゅん)