野宿者や生活保護の受給者の命は軽いのか

 野宿者(homeless)や生活保護を受けている人たちの命は軽い。その人たちは自分にとってはとくに必要がない。芸能人は動画の中でそう言ったという。それが批判を受けている。

 芸能人がいうように、野宿者や生活保護を受けている人たちの命は軽いのだろうか。そうではない人たちの命のほうが重いのだろうか。

 野宿者や生活保護の受給者は、何々である(is)に当たる。そこから何々であるべき(ought)の価値を導くのは自然主義の誤びゅうだ。何々であるから何々であるべきを導いてしまうのには気をつけたい。

 自分が暮らして行くための家やその他の生きるためにいるものをうばわれてしまっている。必要なものを得ることが不足していて足りていない。それが野宿者や生活保護の受給者だろう。貧困には排除やはく奪が関わっているのは見のがせない。ほんとうは個人が得られるべきはずのものを、うばわれてしまっているのである。社会が個人からうばってしまっている。それで貧困におちいるのである。

 憲法では第二十五条ですべての個人に生存する権利が認められているから、それが満たされることがいる。ある人の生存は認められるがほかの人は認められないといったことではない。何かと交換条件になっているのではないものである。

 民主主義においてはすべての人の生存が認められることがいる。ことわざでは命あっての物種(ものだね)といわれる。なにごとも命があってはじめて他のいろいろなことがなりたつ。すべての人の生存が等しく認められることが必要だ。憲法の第十一条などで言われているすべての個人の基本の人権(fundamental human rights)を等しく認めないのであれば民主主義によっているとは言いがたい。

 いまの日本の社会のあり方にはいろいろな問題がある。いろいろな問題を抱えているのがいまの日本の社会であり、それを映し出しているのが生活に困っている人たちなどだ。生活に困っている人たちがいることから読みとれるのは、社会の価値観におかしいところがあることである。社会の価値観にまちがっているところがあることから、生活に苦しむ人がおきてくるのである。

 憲法の第十三条では個人の尊重が言われている。生活に困っている個人がいるとすれば、その個人のことが尊重されるべきであり、それよりも社会のほうをより優先させないとならないとはかぎらない。社会の中にはまちがっているところが少なからずあり、個人が等しく生きて行きやすいようにはなっていない。社会の中にあるいろいろなまちがったところが正されて改められることがいる。

 人格主義(personalism)では個人は何かのための道具や手段ではなくてそれそのものが目的だとされることがいる。何かのための道具や手段として個人が役に立ったり必要だとされたりするから価値があるのではないだろう。それそのものが目的なのが個人だから、それそのものが尊重されるのがのぞましい。

 どこに悪いところがあるのかにおいては、それを個人に当てはめると、原因の帰属が個人に帰属することになる。それだと基本の帰属の誤り(fundamental attribution error)におちいりやすい。因果関係においては、個人の内と外の二つを見て行ける。個人の内だけではなくてその外を見て行く。個人の外を見てみれば、社会の中にはおかしいところがいろいろにある。個人の内とその外の社会とは相互に関係し合うから、個人の内だけを見るのではなくてその外の社会の中におかしいところがないかをよく見ることがいる。

 日本はアメリカやイギリスをよしとするところが大きくて新自由主義(neoliberalism)がとられている。そこから自己責任論がとられることになる。社会の大きさでは小さい社会を志向している。社会の大きさが小さくて厚みがうすいのがあり、個人への手助けが充実しているとは言えそうにない。個人が放ったらかしになっているのがあり、社会の排除がおきている。すべての個人を包摂する社会になっているとは言えないのがある。社会に冷たいところがあり、温かさが欠けているから、すさんでいるのがある。

 成功者と失敗者がいるとして、成功者は失敗者と没交渉でいられるのかといえばそうとは言えそうにない。上と下とのあいだに相互作用がはたらく。下が切り捨てられれば下に不安がまん延して、それが上に波及して行く。下と上に不安がまん延することになり、全体が悪くなる。格差がわざわいするのである。

 資本主義では格差はしだいに縮まるのではなくてどんどん広がって行く。学者のトマ・ピケティ氏はそう言っている。資本収益(利益)率 r はつねに経済成長率 g を上回るので不等式となり格差は広がりつづけて行く。格差がどんどん広がって行くとすれば、社会がどんどん悪くなって行くといっても必ずしも言いすぎではない。

 資本主義であれば社会はうまく行くのだとは言えそうにない。そこには欠陥がある。放っておけば格差がどんどん広がっていってしまうのがあるから、階層(class)の格差の不平等をどのように改めることができるかが求められる。

 参照文献 『天才児のための論理思考入門』三浦俊彦超訳 日本国憲法池上彰(いけがみあきら) 『現代思想キイ・ワード辞典』鷲田小彌太(わしだこやた)編 『きみがモテれば、社会は変わる 宮台教授の〈内発性〉白熱教室』宮台真司(みやだいしんじ) 『社会的排除 参加の欠如・不確かな帰属』岩田正美 『大貧困社会』駒村康平(こまむらこうへい) 『事例でみる 生活困窮者』一般社団法人社会的包摂サポートセンター編 『クリティカル進化(シンカー)論 「OL 進化論」で学ぶ思考の技法』道田泰司 宮元博章 『原理主義と民主主義』根岸毅(たけし) 『心理学って役に立つんですか?』伊藤進 『社会階層 豊かさの中の不平等』原純輔(じゅんすけ) 盛山(せいやま)和夫