資源としての時間が限られている中でウイルスの感染を減らすために政治家にできたことと、それがじっさいにできたのかどうか

 ウイルスの感染が広がりはじめてからいまの時点までにおよそ一年間ほどの時間があった。

 一年間の時間があったあいだに、権力をもつ政治家はいったい何をやってきたのか。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染を減らすために政治家はどのようなことをやってきたのかが問われている。そのことについてをどのように見なすことができるだろうか。それについてを、経済学でいわれる目的と制約と最適化の三つの点から見てみたい。

 いまの時点からふり返ってみて、一年ほど前の時点から逆にさかのぼって見てみると、一年間の時間があった中でやれることは色々にあっただろう。一年間ほどの時間があったことは資源(resource)だと言える。その資源を有効に活用したのだとは言えそうにない。きびしく見なせるとすればそう見なすことがなりたつ。

 経済学の合理的期待形成理論でいわれる目的と制約と最適化の三つの点から見てみられるとすると、まず権力をもつ政治家は、目的をはっきりとさせるべきだった。いまの時点からふり返ってみて、一年ほど前の時点から、どのようなことを目的にするのかをはっきりとさせて定めるべきだった。

 日本の政治では、目的よりも手段を優先させてしまうことが多い。手段が目的化されて転倒してしまう。ウイルスの感染を何とかするさいにもそれがおきたうたがいがある。

 政治において、目的と手段の組みがある中で、手段を優先させないようにしたい。手段を優先させるのではなくて、目的を主とするようにする。あくまでも目的が主(main)に当たり、手段は従(sub)に当たるようにする。その関係をはっきりとさせたい。その関係が逆になりやすいのが日本の政治だろう。

 やるべきことは何かに迷ったとしたら、目的は何かに立ち返るようにして、それが主であることを改めて確かめる。具体論としては、ウイルスの感染をできるだけ減らして行くことを目的にする。すべての国民の生活を守るようにして行く。そうしたことを目的に定めることができる。

 目的が主であることを確かめるようにするのは、手段が主になってしまうのを防ぐためである。手段が絶対化されないようにして、それを相対化して行く。どのような目的が主に当たるのかがあり、その中でいろいろな手段を見て行く。制約がある中でよりふさわしい手段を選ぶ。

 理想論と現実論がある中で、理想といえるほどに最適化されているのがいまの日本のあり方だとは言えそうにない。部分の最適にとどまっている。理想といえるような全体の最適になっているとは言えず、ウイルスの感染が広がってしまっている。

 理想といえる全体の最適から遠くて、部分の最適になってしまっている。その現実があるとすると、それは権力をもつ政治家が主となる目的は何なのかをなおざりにしていることがそのもととしてある。主となる目的は何で、そのための手段としてどのようなことをやるのかを整理できていない。

 一年間ほどの時間があった中で、もしも権力をもつ政治家が主となる目的をしっかりと定められていたのであれば、いまよりももっと現実にいろいろなことを行なえていたのではないだろうか。もっといろいろな手だてを打てていた。主となる目的にたいする手段としてはどのようなことができるのかを整理できていれば、いろいろな手段がある中でこれとこれはできていて、これとこれはまだできていないといったように腑分(ふわ)けしてとらえられる。

 現実に制約がある中で色々にできる手段があり、それらの手段のなかで、どれとどれはいまのところできていて、どれとどれはまだできていない。主となる目的を達するために、制約がある中でできるいろいろな手段をできるかぎりやって行く。もしもそのようにやっていれば、一年間ほどの時間があったなかで、その時間の資源をむだにせずにもっと有効に活用できた。

 ことわざでは時間の資源について、時は金なり(Time is money.)とか時は飛ぶようにすぎる(Time flies.)と言われるのがある。時間の資源が有限であり、それがいかに貴重なもので、それを失いやすいのを説いている。この一年間ほどのあいだで、時間つまりお金をむだに浪費してしまった。時間がむなしく飛ぶようにすぎていってしまった。

 時間の資源を必ずしもうまく生かせなかったことのもととして、権力をもつ政治家が主となる目的は何なのかをなおざりにしたのがある。目的と手段の関係をあべこべにしてしまい、目的を従にして、手段を主にしてしまった。目的と手段のそれぞれについての柔軟性を欠いていて、固定化させてしまった。それらがあったことで政治の創造性が低くなり、理想といえる全体の最適から遠ざかり、部分の最適にとどまったのがありそうだ。

 参照文献 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『正しく考えるために』岩崎武雄 『ラクして成果が上がる理系的仕事術』鎌田浩毅(ひろき) 『創造力をみがくヒント』伊藤進 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ)