二〇二一年の東京五輪をどうするのかと、日本の国の政治に欠けているおそれがある科学性―科学の知識と科学の思考法

 二〇二一年の東京五輪を行なうかどうかを決める。どのように行なうかを決める。それらはあくまでも科学性によってなされるべきだ。アメリカのジョー・バイデン大統領はそうしたことを言っていた。バイデン大統領は自分の政権のことを科学性による政権だと言っていた。このさいの科学性とはいったいどのようなことなのだろうか。

 科学性は大きく分けて科学の知識と科学の思考法とに分けられるという。この二つは車の両輪としてはたらく。東京五輪についてを科学性によって決めて行くのは、科学の知識にもとづくようにするべきなのもさることながら、科学の思考法によることが大切だろう。

 科学のゆとりをもつようにして、科学の思考法によってものごとをあつかって行く。科学の思考法では、すぐにものごとを決めつけずに、わからないことについてはいったん棚上げにしておく。わかっていないことは何かを見るようにして行く。仮説としてものごとをとらえるようにして、複数の仮説をとるようにして、完全に正しいものと完全にまちがったものといった二分法によらないようにする。たとえ正しいとされている権威化された仮説であったとしてもそれを丸ごとうのみにはせずに、いちおう疑うようにしてみる。仮説を絶対化せずになるべく相対化しておく。一体化しないようにして距離をとるようにして対象化するようにつとめる。

 むずかしいことがらであるのならそれを一まとめでまるごととらえてとり組むのではなくて分けてみることが益になることがある。困難は分割せよと言われるのがある。要素に分解をしてみたり、内にもやもやとしていることを外にあらわしてみて外化させたりして切り分けてみる。それで問題を整理してみる。分析の思考によって一つのことを分けた形でものごとをとらえるようにして、分けられた一つひとつについてをそれぞれにとり上げていったほうがむずかしいことがらがかんたん化しやすい。

 日本の与党である自由民主党菅義偉首相が言っているように、あくまでも新型コロナウイルス(COVID-19)に打ち勝って、そのあかしとして東京五輪を行なうことにするのだと、まちがいなく勝つことによることになる。まちがいなく勝つはずだとするのだと、そこに確証や肯定性の認知のゆがみによる信念がおきてくる。まちがいなく神風がふく。そういった見なし方になる。

 勝つのはまちがいがないとしてしまうと、負けることが切り捨てられて捨象されてしまう。勝つのは成功であり、負けるのは失敗だ。ものごとがまちがいなく成功するとは限らずに失敗することもまたあるから、可能性として負けることや失敗することをくみ入れておいたほうが科学性によりやすい。

 時系列で見てみられるとすると、現在から未来へ向かう時間の流れの中で、未来においてたしかに勝って成功するのだとは言い切れそうにない。必然性の次元によって見るのだとすれば、未来においてたしかに勝って成功するのだと言い切れるかもしれない。それを可能性の次元から見てみられるとすれば、負けて失敗することもまたあるはずだ。

 時系列において過去のことを見てみられるとすると、日本の戦前や戦時中においては、まちがいなく日本の国は戦争に勝つのだと言われていた。日本の国が負けることなどあるはずがないとされていて、それを言うことがきびしく禁じられていた。上から言論が統制されていたのである。日本は神の国であり神州不滅(しんしゅうふめつ)なのだから日本の国が負けるはずがない。そこにいちじるしく欠けていたのは科学性だろう。日本の国はまちがいなく勝つのだといった非科学性による神風の神話によっていた。

 過去における日本の国がおかした大きなあやまちをふり返って見られるとすると、そこに欠けていたのは科学性である。それが日本の国の習い性のようになっているところがあり、科学の知識はそれなりに広まっているのはあるにしても、そのいっぽうで科学の思考法はないがしろにされがちだ。

 科学の知識はそれなりに人々に行きわたっているのがあるのだとしても、それとはちがい科学の思考法のほうは軽んじられてしまっている。車の両輪の両方がともにそろっていない。そのことがあるのだとすると、それがもとになって日本の国の政治において失敗が引きおこることのもとになることがある。そこに気をつけるようにしたい。アメリカのバイデン大統領が言ったことをそのようなこととして受けとることもできるだろう。

 参照文献 『科学との正しい付き合い方 疑うことからはじめよう』内田麻理香 『逆説の法則』西成活裕(にしなりかつひろ) 『九九.九%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』竹内薫 『論理的に考えること』山下正男 『思考の「型」を身につけよう 人生の最適解を導くヒント』飯田泰之(いいだやすゆき) 『「ロンリ」の授業』NHK「ロンリのちから」制作班 野矢茂樹(のやしげき)監修