学生が学内で巻いたビラに間接的に見られる、日本の社会の行き詰まり

 大学の中で、教授を批判するビラを巻く。大学の学生はそのことであやうく退学させられかねないことになったという。本当に退学させられることはまぬがれたようだが、何がいけなかったのだろうか。大学の特定の教授を標的にしたことがいけなかったのだろうか。

 大学の教授は、学生が配ったビラの中で批判をされて標的にされた。この教授は、新自由主義(ネオリベラリズム)をよしとしている。若者には貧乏になる自由があるという発言をしている。貧乏になるのは自己責任だというわけだ。規制を緩和して、市場にゆだねればうまく行くといった方向性である。

 この教授は、国の政治にも関わっており、権力に近いということもあって、いまの日本のあり方を象徴しているところがある。すべてがまちがっているというのではないにしろ、いま人々がかかえている不安や不幸というものを、うまく救うような手だてが政治ではとられているとは言えそうにない。そのことが、学生が巻いたビラや、その行為には見てとれる。

 新自由主義によって、市場にゆだねるようにするのは、一見すると効率がよくなって、ものごとがよくなるような気もするが、そうとは言えないところがある。というのも、いま日本の社会が抱えているさまざまな不公平さや不平等さが、そのまま温存されてしまいかねない。時代に合わなくなっているおかしな既得権益があるとして、それが温存されてしまうのはおかしいことだろう。

 かつてのように、いちおう働いて職に就いていれば、落ちこぼれることはなく、一つの型におさまれた時代は過ぎ去ってしまった。やる気さえあれば正規の仕事に就けた時代は過ぎ去ってしまい、働き方は正規と非正規といったように多様化している。家族のあり方も、色々な形になっている。それなのにも関わらず、制度や仕組みは、標準の家族をもとにした、古い時代のままとなっている。ズレがおきている。

 古いあり方を引きずった制度や仕組みがいまも引きつづいているが、それがもとにしている標準の家族というのは、もはや統治(ガバーナンス)がきかなくなってしまっている。文明の利器が発達したことによって、個人のそれぞれがばらばらになっているのだ。標準の家族をもとにするのではなくて、個人をもとにした制度や仕組みに変えることがいる。

 個人の不安や不幸をうまく救うように、これまでの古い制度や仕組みを変える。そのための抜本の見直しができればよいが、そうではなくて、たんに新自由主義をおし進めるというのでは、うまく行かないのではないだろうか。家族を大切にといった復古によるのもそこまでよい手だとは見なしづらい。みんなが幸せになれるような解決ができるとはちょっと言えそうにない。

 古いあり方である、標準の家族というのではなくて、個人を単位とした新しいあり方をとるのはどうだろうか。もはや(標準の)家族というのは結束が弱くなって統治がきかなくなってしまっているのは無視できそうにない。すべてがそうだというのではなくて、そうではないものも中にはあるだろうけど。

 新自由主義は市場の原理によるものだが、それとはちがう、贈与の原理がとられてもよいのではないか。新自由主義による市場の原理をとってしまうと、贈与の原理を嫌うことになる。これだと格差が正されることにはつながりづらい。勝ったのは優れていて負けたのは劣っていて駄目だといったことになりやすい。たまたまの運ということが幅をきかせやすいから、不平等がうながされかねなくなる。

 問題の所在としては、個人にたいして平等にかしこく贈与の原理がとられていず、偏りがあることによって、不安や不幸をかかえる個人が放ったらかしになってしまっているととらえられる。そこを改めることがないと、市場の原理もうまく働くことは見こめそうにない。悪くすると共倒れといったことになる。

 国は財政の赤字を抱えていることもあって、お金をかけることが難しいのはあるだろう。潤沢にお金があるというのではないかもしれないが、豊かさというのは、ため込むことにではなく、贈与(消費)するところにある。人々の豊かさということにおいては、贈与(消尽)ということがあったらよい。

 ぜい沢をするというのではなくて、基本となる需要である衣食住は、いかなる条件によらずに満たされてよいものだろう。そのうちの住なんかは、もっと充実したものが人々に提供されてもよく、そうなったほうが人々の幸せにつながることが見こめる。そのためには、政府が賢くなければならないのはあるが。

 参照文献 『ここがおかしい日本の社会保障山田昌弘福祉国家から福祉社会へ 福祉の思想と保障の原理』正村公宏 『こうして組織は腐敗する 日本一やさしいガバナンス入門書』中島隆信 『居住福祉』早川和男 (市場原理と贈与原理について)『中国で考える』『抗争する人間』(蓄積と蕩尽について)『理性と権力』今村仁司