ミャンマーの軍事政権と、国の権力の本当さとにせものさ―にせものの表象の共同幻想である国とその権力

 ミャンマーでは軍事政権が国の権力をにぎっている。われわれこそが本当の国の権力者なのだと軍事政権は言っている。

 これまでに軍事政権はミャンマーの中で七〇〇人を超える国民を殺している。そのなかで軍事政権はミャンマーのほんとうの権力者に当たるものではないといった見かたが投げかけられている。民主の手つづきによって選ばれたのが軍事政権ではないから、ほんとうの国の権力者に当たるのではない。

 軍事政権がいまのところ国の権力をにぎっている。そのなかで民主主義をよしとする集団が形づくられている。アウン・サン・スー・チー氏らを含む。民主主義によるものこそがほんとうの国の権力者に当たるものだとする動きがおきている。この二つがある中で、はたしてどちらが国の権力としてよりふさわしいものなのだろうか。

 軍事政権と民主主義の集団の二つがあるとして、この二つがもつ共通点とはいったい何だろうか。共通点があるとして、それはそもそも国の権力は何らかの形でさん奪されるものであるのがある。よりろこつな形でそれがあらわれているのが軍事政権だと言えるだろう。それよりもおだやかな形で権力をさん奪するのが民主主義によるものだ。

 もう一つの共通点としては、軍事政権と民主主義の集団は、ともに表象(representation)である点だ。どちらも国民そのもの(presentation)ではない。軍事政権は国民そのものではないから、ほんとうの国の権力に当たるものだとは言えそうにない。それと同じように、たとえ民主主義の集団であったとしても、国民そのものではないから、ほんとうの国の権力と言い切ることはできづらい。あくまでも表象にとどまっているのだ。ほんとうのとか真のと言ってしまうと大衆迎合主義(populism)にかたむく。

 一か〇かや白か黒かの二分法では割り切りづらい。それがあるために、軍事政権こそがほんとうの国の権力だとは言えないし、民主主義の集団こそがほんとうの国の権力だとも言い切れないだろう。どちらもが表象にすぎないものだから、完全に国民の全体を代表することはできない。民主主義によって多数派を形づくって与党になったとしても、その与党は政党(political party)だから、全体ではなくて部分(part)を代表するのにとどまる。

 どちらがほんとうに国の権力と言えるのかでは、ほんとうのものとにせものとのあいだの分類線は揺らぐ。たとえ民主主義の集団だとしても、ほんとうの国の権力とは言い切れず、にせのところがあるのはいなめない。にせのところがあるのは、自分の目で一つひとつのことを確かめることができず、報道などで環境が形づくられるのがあるためだ。あるがままの自然の環境であるよりは、人工の疑似環境になっているのである。人為の構築性がある。

 国の権力をにぎるかぎりは表象にならざるをえず、国民そのものと完全に一体だとは言えそうにない。国民そのものとのあいだにずれがあるのを隠ぺいしたとしても、ずれがあることは否定することができない。

 修辞学の議論の型(topica、topos)の比較からの議論で見てみられるとすると、どちらも表象にすぎず、ほんとうであるよりはにせものである点において、軍事政権と民主主義の集団は類似性をもつ。そのなかで、どちらがより形式の合理性をもつのかといえば、民主の手つづきをふんでいるかどうかにおいて、その手つづきをふんでいるものである民主主義により優位性があるだろう。

 絶対論に持ちこんでしまうと、一か〇かや白か黒かの二分法になってしまう。もともと絶対論による二分法にはなじまないのが民主主義であり、相対論によるものである。相対論で見てみると、相対的により形式の合理性があるのは民主主義の手つづきをふんでいるものであり、頭をじかにかち割るのではなくて数を割ることによる。

 比較からの議論によって見たさいには、軍事政権と民主主義の集団の二つに類似性があるからこそその二つを比べることがなりたつ。二つを比べてみたさいに、軍事政権が言っていることとはちがい、民主主義の手つづきをふむことのほうにより形式の合理性からいって優位性がある。軍事政権のほうが劣位にあるのである。優位か劣位かは絶対のものではなくてあくまでも相対的なちがいにすぎない。どちらも表象にすぎない点では共通点があり、にせものといえばにせものだ。二つを比較してみるとそう言うことが言えそうだ。

 参照文献 『民主主義という不思議な仕組み』佐々木毅(たけし) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『抗争する人間(ホモ・ポレミクス)』今村仁司 『議論入門 負けないための五つの技術』香西秀信 『究極の思考術 あなたの論理思考力がアップする「二項対立」の視点十五』木山泰嗣(ひろつぐ) 『ポケット図解 構造主義がよ~くわかる本 人間と社会を縛る構造を解き明かす』高田明典(あきのり) 『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』佐藤優 井戸まさえ