汚染水を処理した処理水を海洋に放出することと、理と気

 トリチウムはそれほど危なくない。危なくなさを知らしめるために、復興庁はトリチウムのかわいらしい漫画の絵のキャラクターをつくっていたという。少しでもあたりを柔らかくしようといったことでのものだろう。

 理と気でいうと、あたりを柔らかくしようとするのは気に当たるものだ。気によるのだとごまかしになってしまうのがあり、子どもだましのようになるのがある。ふさわしいやり方だとは言えそうにない。放射性物質の危なさは理つまり現実主義(realism)によってあつかうべきものであり、それを気によってあつかおうとするのは取りちがえになる。日本は理がいるところでそれが欠けて気に走ることが少なくなく、復興庁がトリチウムを漫画化することにそれが見てとれる。

 放射性物質をふくむ汚染水を処理した処理水を海洋に放出することを政権は決めたが、それは正しい政治の意思決定だったのだろうか。処理水の海洋への放出には反対の声がおきていて、そこには理と気の両方が関わっているのだと見られる。風評の害がおきることは、気に当たるのがある。気だけではなくて理もまた関わっている。

 気に当たることとしては、処理水を海洋に放出することの正当性についてがある。正当性があるかどうかでは、上から政権が一方的に決めるのではみんながよしとはできづらいことになりやすい。

 風評の害がおきるのがあり、その害がおきることで損をこうむる人たちが政治の意志決定の過程にきちんと参加しているようでなければならない。害がおきて損をこうむる人たちが政治の決める過程に参加していないで排除されているようだと、包摂性が欠けている。

 処理水を海洋に放出することを政権が決めたさいに、強引に上からの理によって決めたのだと、それがほんとうに正しいものなのかには疑問符がつく。これが正しいのだといったことで、政権が上からの理によって強引にものごとをおし進めるのはまずさがおきてくる。

 もう決めましたといったことで、政権が政治の決定をしてしまうことで、ものごとが既成事実化される。日本が既成事実に弱いことを悪用することになる。もう決まったことなんだからそれに従えといったことであれば、ものによってはそこにほんとうに正当性があるのかどうかがきびしく問われなければならない。空気を読ませるような集団思考(groupthink)がはたらくと集団がまちがった方向に向かってつっ走って行ってしまう。

 日本で原子力発電所をつくるさいに、理であるよりも気によってそれをおし進めてきた。理によるのよりも、気であるお金を大量に流すことによって原発をたくさんつくってきたのである。原発はよいものだといったことで、安全神話が形づくられてきた。気である大量のお金が原発をよしとする広告の宣伝に使われていたのである。気である原発にかかわるお金が芸能界などの色々なところに流れていたとされる。

 日本の社会のなかの負のところである呪われた部分に当たるのが原発についてのことがらだ。呪われた部分である原発についてを見て行くさいに、政権が決めたことなのだからそれが正しいのだといったことで、そこに完全な理があるのだとしてしまわないようにしたい。

 原発には予測ができづらいところがあり、科学では完全に制御できないところがあるから、完全な理はなりたちづらく、不完全な理にならざるをえない。日本は自然災害が多くて地震国だから、その条件をくみ入れると、原発を完全に予測して科学によって制御し切れるとは言えそうにない。

 完全に安全なものであり、完ぺきに安心してしまえるとは言えないところが原発にはあり、絶対にぐらつかない確かな土台に乗っかっているものではないだろう。原発の土台はぐらつきや不たしかさがあり、非の打ちどころがないような自明性を持っているのではない。

 原発にかかわることがらである、処理水を海洋に放出することは、完全にまちがいがないような自明性を持っているとは言い切れず、まったくもって正当なものだとしたて上げたり基礎づけたりできないおそれがある。

 原発にかかわることがらが、十分ではない理によっておし進められたり、気である大量のお金を流すことによっておし進められたりしてきたのがあるから、そのいびつさによるゆがみやひずみがあることはいなめない。小さくないゆがみやひずみがあり、理が失われているところがあり、不満の声である気がおきてくるのがある。不満の声をふくめて、もっといろいろな声があげられるようにして、正当ではないところが明らかになるほうがのぞましい。

 参照文献 『韓国は一個の哲学である 〈理〉と〈気〉の社会システム』小倉紀蔵(きぞう) 『現代思想を読む事典』今村仁司編 『絶対幸福主義』浅田次郎 『情報生産者になる』上野千鶴子 『目のつけどころ(が悪ければ、論理力も地頭力も、何の役にも立ちません。)』山田真哉(しんや) 『できる大人はこう考える』高瀬淳一 『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』長谷川眞理子 山岸俊男